我が国は「海洋立国」の実現をめざし「海洋基本法」を定めています(2007年制定・施行、2012、2017年に改正)。海洋基本法には、環境保全を重視しながら、水産資源だけでなく海底地下資源も開発していく方針が示されています。これを受け、東京海洋大学は2017年4月に「資源と環境」に焦点を当てて教育・研究する「海洋資源環境学部」(定員105名)を品川キャンパスに創設しました。
海に囲まれた我が国では、海の資源を上手に利用しながら新しい産業分野を作り上げていくとともに、海の環境を保全しながら海洋の利用を進めていく必要があります。この新しい学部は、海洋の生物を含む環境とその保全、並びに海洋の資源・エネルギーの開発と利用に関する高度で専門的な知識と技術を習得し、将来における我が国の海洋利用を牽引し得る人材の育成をめざしています。
2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」は、国連加盟国193か国が2030年までの15年間で達成する国際目標です。SDGsが掲げる17個の目標の中でも目標14「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」は、本学の教育と研究に極めて密接に関わるものです。特に、この目標14の具体的内容である「海洋及び沿岸の生態系の回復に取り組む」や「2025年までにあらゆる種類の海洋汚染を防止し大幅に削減する」等は、海洋資源環境学部の教育・研究の目的そのものです。このような社会の要請に応え、本学部では一人ひとりが個々の好奇心と興味を大切にしながら人類共通の目標ともいえるSDGs達成への貢献を意識して、さまざまな研究課題に取り組んでいくことが望まれます。
海洋には、温暖化、環境劣化、生物多様性の喪失など、未来の地球のために直ちに着手しなければならない重要な課題がたくさんあります。これらの課題に取り組むためには、科学的で確実な知識と適切な技術が必要です。
海洋環境科学科(定員62名)では、海洋学および海洋生物学の専門家の養成をめざして教育と研究を行います。まず、海洋や海洋生物に関する基礎的な項目(生物学系、化学系、物理学系、地学系)を総合的に学んだ上で、海洋環境と海洋生物に関する調査・解析・保全・利用のための専門的な知識と技術を積み重ねていきます。
海底および海底下の資源(レアメタルやメタンハイドレートなど)、再生可能エネルギーの活用 (風力発電、潮流発電など)、地震発生メカニズムの解明、海底探査技術の開発等は、海洋を舞台とする産業を興し、未来の世界を支えるための重要な課題です。
海洋資源エネルギー学科(定員43名)では、海洋開発、海上から海底までのあらゆる空間における活動を支える応用海洋工学の専門家の養成をめざして教育と研究を行います。海洋開発等の活動を、生物を含む環境を守りながら推進するために、海洋・環境・資源・エネルギーなどを幅広く学び、実践できる専門技術を習得していきます。理工系を指向する人の要求にも十分に応えることができる、魅力が詰まった学科です。
陸や海に投棄され、海に流出するプラスチックスの量は、年間800万トンと推算されています。これらは分解することなく、時間とともに細かく砕け、5 mm以下の「マイクロプラスチックス(MPs)」となって、海面や海中を漂い、また、海底に沈んで堆積します。そして現在では、世界中の海洋がMPsに汚染され、日本近海には世界平均の20倍以上の密度で漂流しています。
MPsには、海水中のポリ塩化ビフェニル(PCB)やダイオキシンなど残留性有機汚染物質(POPs)が吸着し、プランクトンが餌と一緒にマイクロプラスチックスを食べるとPOPsなどが体内に蓄積し、食物連鎖を通して人体にまで悪影響を及ぼすと懸念されています。本学は、練習船を駆使して、世界で初めてマイクロプラスチック汚染が南極海にまで及んでいることを明らかにしました。海洋資源環境学部の二学科では、マイクロプラスチック汚染の実態把握と改善に向けた研究をさらに推進していきます。