法学は生活全般に関わる法律の成り立ちや解釈を学び、社会の問題に対する合理的な解決策を探る学問です。六法(憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法)、行政法、労働法、国際法などの条文の解釈や、その法律がどのように運用されているのかを学びます。また、法律が社会正義にかなっているか、法と道徳はどう違うのかという哲学的な問題も扱います。
グローバル化により国際法や国際関係法の重要性が増しています。また、企業経営ではコンプライアンス(法令遵守)が強く求められるなど、経済分野でも法律知識の必要性が高まっています。社会の複雑に絡み合う利害対立を調整する上で、法律の知識は欠かせないので、こうした問題に対処する「リーガルマインド(法的なものの見方)」を身につけた人材が、さまざまな分野で求められています。
法曹職や公務員などのほか、金融・保険業、商社、製造業、マスコミ関連など、活躍の場は多岐にわたります。企業コンプライアンスの必要性から法律知識を有する人材へのニーズが高まり、企業の法実務のエキスパートとしての活躍も期待されています。
一橋大学 法学部 法律学科 教授 本庄 武 先生
多くの人は、「悪いことをしたら処罰されるのが当たり前だ」と思っています。しかし、犯罪として処罰する時には、必ず根拠が必要です。そのため、犯罪になる行為は何か、刑罰の種類や程度と合わせて定めている法律が「刑法」です。殺人や傷害、窃盗などが処罰の対象となるのは、人にとって大事な利益を侵害する行為だからです。一方、誰かの利益を損なう恐れがないのであれば、たとえ悪い行いだとしても、処罰すべきではないと考えられています。
例えば、人の思想は処罰されるでしょうか。この点については、反社会的なことをいくら考えても、考えるだけでは処罰の対象になりません。人が何を思っているかを確かめる術はなく、危険思想だと決めつけて取り締まる行為は、一部の人にとって不都合な人を排除することになりかねません。しかし殺人を計画して凶器を準備し、相手のもとへ向かっている、など具体的な行動を起こした場合は、誰かの利益を損なおうとしていることが明らかなので処罰できると法律で定められています。
犯人に「責任能力」がないと判断されると、人をナイフで刺して死亡させたような場合でも、罪に問われません。刑法では、その人の「せい」だったといえない限り、犯罪が成立しないと考えられているからです。しかしこの刑法の原則は、しばしば実際の市民感情との間でズレが生じます。なぜ処罰されるのか、また処罰されないのかを考えれば、私たちの常識を問い直すことにつながるでしょう。
刑罰は国家が国民に行使できる最も強力な権力です。だからこそ厳密な議論が必要で、いかに適正に行使できているか、吟味しなければなりません。また刑事法学では、心理学や社会学など経験科学の知見を踏まえた、学際的な研究も行われています。公共的な視点を養う意味でも、有意義な学問だといえます。
京都大学 法学部 教授 髙山 佳奈子 先生
2018年、中国で世界初となるゲノム(遺伝子)編集された双子の赤ちゃんが誕生したと発表され、安全や倫理などさまざまな面での危険性が指摘されました。このほかにも、私たちの社会には日々新しい問題が発生しており、中には既存のルールでは対応できないものも多く含まれます。
刑法の分野では、こうした問題に対して新たな罰則を定め、法規制によって問題に対処していきます。最先端の医療や科学分野の問題は法律家だけでは判断が難しく、世論も形成されにくいため、その分野の専門家を「審議会」という場に招き、専門的な知識や意見を取り入れながら、新しい法律を作っていきます。
刑法の審議会は、法務省や警察庁が担当することが一般的ですが、経済スパイのような問題は経済産業省が、科学技術に関する問題は文部科学省が担当することもあります。また、人の胚に関する問題のように生殖補助医療と密接に関係しているケースでは、民法の中の家族法の専門家が参加し、行政による承認をもって規制する場合は、行政法の専門家が参加します。こうした専門家による審議の結果が内閣に提出され、それをもとに内閣提出法案が作られ、国会で可決された後で法律として施行されます。
新たな法律は日々作られていきますが、法律は一度作れば普遍的に通用するというものではありません。特に最先端科学のような分野では、科学技術の発展にともなって新たな議論が生まれるため、規制となる対象や罰則も更新され続けなければならないのです。
法学というと、過去に作られた法律や裁判例を覚えるというイメージがあるかもしれませんが、基本となる考え方を理解した後は、新たな問題に対処する思考が不可欠です。決してきれいごとでは済まされない部分に目を向けていくことも多くあり、大変なこともありますが、法学はいわば社会の先頭に立ってルール作りに参画する学問分野なのです。
大阪大学 法学部 法学科 教授 松田 岳士 先生
警察など捜査機関が捜査対象者の車にGPS端末をひそかに付け対象者の動向をつかむ、GPS捜査というものがあります。新たな技術を使った捜査手法ですが、これまで法的に明確なルールがありませんでした。GPS捜査に対して各地の裁判所でさまざまな見方が示されていたのですが、最近、最高裁判所は「GPS捜査は、令状がなければ違法」という初めての判断を示し、大変注目されました。
それまで刑事訴訟法のルールの中で議論されてきたこの件に対し、今回、最高裁は「住居等の不可侵」を規定した憲法35条の解釈にまでさかのぼった説明をしました。これは、令状がないと警察や検察、行政機関も勝手に個人の住居等の中に入ってきてはいけないというものですが、この考え方の源流は欧米の近代国家の法制度にあり、その歴史的な変遷をたどれば「プライバシー」の考え方がどうやって生み出されてきたかも読み取ることができます。
このように日本の明治以降の法制度は、欧米の近代的な法制度を輸入して整備されてきた経緯があります。また、欧米の制度も大きく英米法・大陸法(フランス・ドイツなど)の二つに分かれており、さらに各国の歴史や文化的背景による理解の違いも影響していて、実に多様です。
GPS捜査のように、新しい技術や社会の変化によって登場した事象を既存のルールの中でどう判断するかというとき、研究者は既存の制度が成立した歴史的・文化的背景を重視しながら諸外国の制度との比較、法律の文言やとらえ方などさまざまな視点から議論を重ねます。そうしていくと、そのルールの新しい意味や説明が発見される、つくり出されることがよくあり、そのアイデアを、実務に携わる人たちに提供していくのです。
法学は「既存の制度の説明にとどまっている」というイメージを持たれがちですが、実は「発見」を繰り返す、生きている学問なのです。
神戸大学 法学部 法律学科 教授 川島 富士雄 先生
1930年代、アメリカ発の経済不況が波及し、日本を含む資本主義諸国は世界恐慌の時代を迎えました。危機を乗り越えるべく、各国は輸入を制限し自国産業を保護する保護主義を採用しました。輸入関税の引き上げやブロック経済化などにより、結果的に、世界経済は低迷していきます。保護主義は貿易戦争だけでなく、領土拡張競争を引き起こし、第二次世界大戦勃発の素地をつくりました。その反省から1948年に発効したのが、自由貿易を志向する、GATT(ガット)という関税や貿易に関する国際協定です。
その後、GATTに代わり、1995年に発足したのがWTO(世界貿易機関)です。自由貿易の対象範囲を農産物やサービスに拡大するとともに、知的財産権を保護するなど、時代に合った国際ルールを作りました。さらに、貿易摩擦が政治問題化するのを防ぐ紛争解決手続きも強化され、現在、日本をはじめ160カ国以上が加盟しています。
中国も、2001年にWTOに加盟し関税引き下げやサービス市場開放を受け入れました。これで市場経済化が進み、共産党独裁体制が緩むのではと期待されましたが、むしろ国家による経済のコントロールを強めています。
2018年に入り、アメリカのトランプ大統領が鉄鋼とアルミの輸入関税を引き上げるなど、大国が国際ルールから外れようとしています。米中の大国間の貿易摩擦は、世界恐慌の再来、さらには戦争にもつながりかねません。また、トランプ大統領がNAFTA(北米自由貿易協定)からの脱退を示唆したことで、すでに、メキシコへの投資を控える動きが出ています。
こうした保護主義的な動きが反面教師となって、世界経済の発展に国際経済法がいかに重要か気づかされます。国際経済法への理解は、貿易交渉を担当する官僚や国際機関の職員だけでなく、メーカーや商社、サービス業など、グローバル展開をしている企業で働く人にも欠かせない素養なのです。
西南学院大学 法学部 国際関係法学科 教授 多田 望 先生
企業間の取引でトラブルが生じ、話し合いでも解決できない場合、最終的には裁判所で解決されることになります。日本の企業同士のトラブルであれば、日本の裁判所で日本の法に従って裁判されるでしょう。では、日本の会社とアメリカの会社といった、異なる国の企業間の場合はどうでしょうか。裁判するのは国連が作った裁判所、それとも、どこかの国の裁判所でしょうか。また、トラブルを解決するために使うのは条約、それとも、どこかの国の法でしょうか。
このような場合、国連が作った裁判所はないため、どこかの国の裁判所で裁判することになります。でも、日本や韓国、中国、アメリカ、ヨーロッパ……どの国の裁判所で裁判できるか、すぐにはわからないでしょう。日本の企業であれば、日本で裁判したいと考えますが、外国の企業は自分の国で裁判したいと考えるでしょう。この問題を解決する特別な法と条約が、世界の国々に、そして日本にもあります。たくさんあるルールの中で1つだけ紹介すると、裁判は、訴えられる側の国ですべきだ、というルールがあります。訴えられる側が裁判の準備で不利にならないように、という公平を考えてのものです。
どの国で裁判するかが決まったら、次はどの国の法を使うか、です。裁判をする国が、そのトラブルに関係する条約に加盟している場合、その条約が適用されることが多いです。例えば日本は、国際的な売買契約に関して国連が作った条約に加盟しています。もしもそういう条約がなかったら、そのときは、どこかの国の国内法を使って裁判することになります。でも、どの国の法になるか、これもまたすぐにはわからないでしょう。これについても、特別な法と条約があります。国際私法という名前なのですが、これによると、日本での裁判で、外国の法が選ばれることもあります。トラブル解決のために、「日本の裁判官が、日本法でなく、外国法を適用する!」この国際感覚のダイナミックさが、国際私法の魅力です。
研究活動が盛んな京都大学で法律の研究をしたいと思ったから。
教育プログラムが良い。将来に役立ちそうだったから。
法科大学院進学のため図書館の開館時間などの学習環境が整っている
法学部の国際公共政策学科の教育内容が魅力的だったから。
留学プログラムの充実や法学部で国際法を専攻として学ぶことができることが決め手となった。
将来国際関係の仕事に就きたいと考えている私にとって最適だと思ったから。
語学学習の環境が充実していて、図書館も新設されていることなど。
公務員対策のカリキュラムが充実しているから
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一橋大学 法学部
社会科学系学問に関してトップレベルである
他学部の授業を自由に取れるところが魅力的だったため。