19社会学

社会学は「集団の一員としての人間」という観点から、個人を取り巻くあらゆる社会関係や、その中での人間の営みを探究し、人間の行為とその意味を客観的に分析します。家族や学校、企業、地域社会の問題から、都市、産業、メディア、文化、国際社会、人類のテーマまで多彩であり、「人間の集団と関わりのある事象」はすべて社会学の研究対象となります。
また具体的な研究対象は幅広く、「格差問題」「非正規雇用」「命の尊厳」「ジェンダー」「テロリズム」「SNS」「過疎化」「まちづくり」など、社会に起こっている現象や問題を取り上げて分析し、提言や注意喚起を行っていきます。社会学では、研究する目的の場所に出かけて、情報収集のためのアンケートやインタビューなどの聞き取り調査を行う「フィールドワーク」を重視するという特徴があります。
学んだことを実践できる就職先はバラエティに富んでいます。製造業や流通・サービス業で商品開発や販売戦略を手がける人、情報収集が欠かせないマスコミ関連やマーケティング関係で活躍する人、公務員として公共の問題の解決に携わる人もいます。
弘前大学 人文社会科学部 教授 曽我 亨 先生
「人の振りみて我が振りなおせ」という格言があります。他人の嫌な言動や態度をみたら、それを自分に置きかえて省みようという意味ですが、人類学もこれに似た考え方をします。自分の振る舞いを、客観視することはとても難しく、だからこそ異文化に生きる人々と一緒に暮らし、驚きや違和感を手がかりに、私たち自身のことを知ろうとするのです。また逆に、私たち自身のことを手がかりに、彼らの振る舞いを理解しようともします。哲学が本を片手に考えをめぐらせるのとは対照的に、人類学はフィールドに出かけて、身体で体験しながら人間について考える学問です。
あなたは自信に満ちて生活していますか? 北ケニアの牧畜民と暮らすと、彼らがとても自信に満ちていることがわかります。一方で学生に「自分はダメだと思ったことがあるか?」と聞くと、ほとんどの学生が手を挙げます。ということは、この感覚はあなただけが感じる個人的な現象ではないということです。むしろ日本の社会こそが、あなたにそう思わせているのだと考えられます。牧畜民と私たちの社会を比べることで、自己肯定的な生き方を実現するヒントがみえてきます。
牧畜民たちは、どうして自己肯定的な生き方ができるのでしょうか。フィールドワークによって、彼らは家畜とともに生きており、「子どものうちは羊の放牧を、青年になると牛の放牧をする」というように、自分の未来を予測できる社会に生きていることがわかります。一方、私たちが暮らす現代の社会は、「未来を現在よりもよくするために、人は変わり続けなければならない」という価値観をもとに作られており、人は常に「このままではダメだ」と変化を求められます。
近年、私たちの社会も大きく変わり、未来の不確実性も高まってきました。不確実な社会を生きるにはどうしたらよいでしょうか。地域の人たちの考えを拾いあげ、充実した「今」を生きる術を考えることも、人類学の大切な役割です。
高崎経済大学 地域政策学部 地域づくり学科 准教授 宇田 和子 先生
1968年に国内最大の食品公害とされる「カネミ油症事件」が発生しました。誰もが口にする食用油に、有害なPCB(ポリ塩化ビフェニル)が混入したのです。油を食べた人たちは健康を破壊されました。さらに、PCBが加熱されて発生するダイオキシンは母乳や胎盤を通じて次の世代にも引き継がれ、大きな社会問題になりました。事件発覚から約50年が経過しましたが、被害者の補償や二世の認定の問題などが今も取り残されたままになっています。
公害病の場合は、原因企業など特定の「誰か」のせいで病気になると言えます。それに対して、いわゆる環境病の場合は、「誰か」が特定できず、自分自身も原因者になることがあります。現代の社会で、私たちはたくさんの化学物質を日常的に使っています。例えば白アリの駆除剤を焚(た)いたとか、プラモデルの組み立て時に換気をしないで接着剤を使ったとか、自分自身の行為として化学物質に触れ、体調が悪くなってしまう場合があります。こうした化学物質への接触をきっかけに、学校の教室に塗布されているワックスに反応したり、周囲の人の衣類に残っている柔軟剤で気持ち悪くなったりするシックスクール症候群や化学物質過敏症が確認されています。新しい技術が生み出されることにともなって、新たな環境リスクが生まれているのが現代社会なのです。
公害病や環境病を発症した人たちへの補償、賠償というと、病気の治療費を給付することのみと考えられがちです。しかし、病気になる前には元気に働いていた人が病気になって仕事を失うとか、家で寝込むことが増えて家族から「怠け者」と言われるなど、病気にかかることの社会的影響は幅広く、これらも一種の損害であり、被害です。
このように公害病・環境病から派生する被害にはどのようなものがあるのか、その被害を誰がどのような根拠で補償できるのか、環境社会学が明らかにしていくことが求められています。
東京大学 教養学部 准教授 和田 毅 先生
学生や市民が人を集めて、社会への不満やその改善を訴える行動を「抗議行動」と言います。抗議行動には穏やかなものから暴力的なものまでさまざまなものがあります。また、抗議行動の主体も多様ですし、抗議の対象も学校や企業、政府といろいろです。
社会学で抗議行動を分析するのに、新聞などから抗議行動の記事を集め、「いつ、どこで、誰が、誰に、どのような手段で、なぜ」という項目で分類し分析する方法があります。これを「イベント分析」と言います。
この手法で、18世紀後半から19世紀初頭まで、つまり産業革命期のイギリスでの抗議行動のデータを見ると、興味深いことがわかります。
まず18世紀には、一般民衆が地元の商人や土地を所有する貴族、そして地元政府の役人などに対して、石を投げたり火をつけたり家の窓を割ったりといった、暴力的な抗議が多数を占めています。しかし、19世紀になると、公開集会や嘆願活動のような暴力を用いない穏健な形の抗議行動が主流になってきました。なぜ、このような変化が起きたのでしょうか。
これには、イギリスの政治体制の大きな変化が関連しています。権力が国王や貴族から議会へ、地元の政府や領主から中央に移動していったのです。これに対応して、民衆の抗議行動も暴力的なものから議会に対して訴える形に変化していきました。
食料など生活必需品を握っている商人や地元の役人などが抗議の対象なら直接その対象相手に暴動をおこす手段が有効なこともありましたが、議会が力を持ってくると、ものごとを変えるにはロンドンにある議会に圧力をかけなくてはならないと国民が理解し始めました。それにより、嘆願や集会といった形の抗議行動が増えていったのです。
このように新聞記事という質的データを数値化するイベント分析を用いることで初めて見えてくることはたくさんあります。現在は、こうした過去のデータだけでなく、リアルタイムの抗議行動をデータ化するための研究も進んでいます。
椙山女学園大学 文化情報学部 文化情報学科 教授 黒田 由彦 先生
東日本大震災では、未曾有(みぞう)の被害により、復興のための都市計画などに時間がかかった市町村は少なくありません。そんな中で早い復興を実現したのが、住宅の約9割が被災した宮城県女川町(おながわちょう)です。スピーディーに復興できた理由は、地域の住民力があったからです。女川町は震災前から地域の連携が盛んでした。行政任せではなく、住民同士で意見を出し合ってまとめ、要望を提出したことで、住民の意向に沿った形での復興に成功したのです。
今、地域の役割がますます重要になり、再注目されています。有事のときほど、地域のあり方が大きく影響します。住民同士が対立したり、交流がなかったりする地域は、災害時や復興時に対立が顕著になることや、方向性が決まらないことがあるのです。
今は、想定外の自然災害が起きる時代です。東海地区では、南海トラフ地震が30年以内に70~80%の確率で発生するといわれています。防災は、地域の力が非常に重要になっています。愛知県は海抜ゼロメートル地帯が多数あり、名古屋市の一部地域でも津波被害が懸念されています。命を守るには、正しい知識と情報をもつことが重要なのです。地震や災害の科学的な研究は世界に誇れる日本ですが、地域社会で住民と行政が協働しながら総合的に取り組んでいくことが必要とされています。
地域が抱える課題は災害だけではありません。外国人が増えたことによる多文化共生や、超高齢社会への対応などが問われています。地域の問題を考える「地域社会学」によって、表面化していない隠れた課題や、支援するための手法などが見えてきます。
社会のニーズや、地域に貢献する機会は増えています。国際比較も含めた検証などにより、広い視野で社会を見つめ、より良い地域社会とは何かを考えることが大切です。地域社会学により、効果的な活動のサポートや、問題解決を図ることも可能になってきます。
宮崎大学 地域資源創成学部 地域資源創成学科 教授 熊野 稔 先生
少子高齢化と人口減少が、社会問題になっています。仕事や暮らしの舞台である「まち」を持続させるためには、さまざまな「地域資源」を総合的に検討し、持続的な発展を実現できるまちづくりや村おこしの取り組みが必要です。そのためには、十分な「実現可能性調査(FS:Feasibility Study)」を行い、公共事業としての投資効果が得られるかどうかを見極める必要があります。そうした手法について研究するのが、「地域経営学」「都市計画」などの学問分野です。
1991年から社会実験が始められ、1993年に全国に103カ所が開設された「道の駅」は、人気の高まりにともない、2017年4月時点で1117カ所に増えています。円滑な交通を支える休憩場所としての機能、情報発信機能、地域連携機能を併せ持つ、「地域とともにつくる個性豊かなにぎわいの場」としてスタートした道の駅は、近年は、24時間利用可能なトイレや駐車場を備えた公共施設として、災害時の避難場所や食料支援など、「防災機能」も発揮しています。
全国で最初に社会実験が開始された、「道の駅ゆとりパークたまがわ」(山口県萩市)の場合、地域の人々から「道の駅ができていなかったら、まちは存続しなかったかも」と、評価されています。田万川エリアは、県内屈指の果物生産地ですが、道の駅のおかげで販売量が伸びたほか、売れ残った果物は、ジュースなど加工品として販売できるようになりました。当然、雇用拡大にもつながっています。
高齢化地域における「買い物難民」対策として、各地の道の駅には今後、食料品や日用品の宅配を行う機能なども期待されています。それを実現させるには、地元企業の「CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」とのコラボなど、新たな手法を検討しなければならないでしょう。
地域政策に興味があり、実践的な教育を行っているため。
地方自治に関する専門知識や政策立案能力、多数の学問を学べること。
学習環境、とくに図書館が充実しており、利用したいからです。
興味のある分野に教わりたい教授がいるから。
情報教諭の免許が取得できるため。また、司書、学芸員の資格も取得できるため。
自分が将来就きたいと思っている仕事に近づける教育プログラムがふくまれていたため。
地域資源創成学部では街の成り立ちや文化を研修や講義によって学ぶことができるため選びました。
自分がやりたかった地域活性化について力を入れておられたので、そこで学びたいという気持ちが強かったから
弘前大学 人文社会科学部
社会学系の分野を網羅できること
弘前大学は総合大学で様々な学部の人達と交流できることが魅力的だと感じました。