自然界の物理現象の観測と実験的検証を通して、その法則を証明し、理論的解釈を与えることを目的とする学問です。対象は非常に幅広く、ミクロの世界の素粒子・原子・分子から地球・宇宙まで、自然界のすべての事象が研究対象となります。科学技術全般への応用範囲が広い学問です。
「原子・素粒子物理学」では物質を構成する原子や物質の究極の構成単位である素粒子を探究します。「物性物理学」は電子や原子の運動から物質の性質を解き明かし、半導体や超伝導の研究につながっています。「宇宙・天体物理学」では宇宙の誕生の謎やブラックホールなどを研究します。研究手法としては、現象の実験的検証を行う場合と、数式やコンピュータシミュレーションをもとに理論構築をめざすものがあります。
大学院への進学率が半数に近く、修士課程の後に企業の研究部門への就職を見据える例が一般的です。大学や国の研究機関に就職する人もいます。一般企業では、電子機器、機械、ソフトウェア、システム、情報の分野が主な就職先となります。
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 教授 宮本 洋子 先生
光は均質な空間では直進すると思われがちですが、波としての性質をもつので「回折」という現象によって必ず拡散します。また物質が密なところでは伝わる速さが遅くなるので、場所によって密度が異なるとより密な方に曲がります。この性質を利用することで、回転しながら進む光、「ドーナツビーム」を作ることが可能です。ガラスに薄く透明なポリマーを塗って場所によって厚みを変えると、厚いところほど光が遅れて曲がるので、場所によって曲げる方向を変えると回転する光ができるのです。
水が回りながら排水口に落ちていくとき中央に穴があくように、回転する光も中央に穴があいて「ドーナツビーム」になります。この光の回転運動は、コマが回り続けるように保存されます。さらに、物体に吸収されると物体の運動に変換されます。つまり、光を使って動力を生み出したり、モノの動きを制御できるのです。この性質を使うと、医療分野で細胞を操作したり、検査用チップの上で薬品をかくはんすることができます。
また光ファイバー通信では、従来はファイバー内の密度が高い「コア」に中央が明るい光を通していましたが、送信されるデータ量が増えるにしたがって、中心部の光が強くなりすぎる問題が出てきました。この解決策の一つとして、ドーナツビームを使う方法があります。コアを少し太くして、従来の光は中央を通し、その周りにドーナツビームを通すことで、送信するデータ量を増やすのです。
ドーナツビームと回転する水はどう違うのでしょうか。ドーナツビームは波なので、回転しながら波として振動もしています。一周して元の位置に戻るまでにちょうど整数回振動すると、元の波と強めあって安定した回転になります。これは回転する水にはない性質ですが、超流動ヘリウムなどの特殊な液体と共通の性質です。安定したドーナツビームには整数との対応があるので、量子力学の原理を使った新しい情報技術に活用できると考えられています。
東京都市大学 理工学部 原子力安全工学科 教授 鈴木 徹 先生
世界では今、新型の原子力発電の研究と開発が活発に行われています。その中心は「高速増殖炉」です。従来の「軽水炉」は「ウラン235」を使いますが、実はウラン235は地球上のウランの1%以下の量しかなく、このまま使い続けると数十年でなくなってしまいます。一方、高速増殖炉で使用するのは「ウラン238」です。これは残りの99%にあたり、ほぼ半永久的に使えるだけの量があることがわかっています。ここに、高速増殖炉に期待が集まる理由があります。もちろん、開発にあたって安全性が最も重視されていることは、言うまでもありません。
軽水炉でも高速増殖炉でも、安全性を考える上で重要なポイントとなるのが配管です。原子力発電は、核分裂によって生じたエネルギーで湯を沸かし、その蒸気でタービンを回して発電する仕組みです。これは火力発電も同じ原理です。つまり、原子力プラントの配管の中では、炉心で核分裂反応によって発生した熱を流体が受け取り、蒸気となってタービンを回し、その後、再び冷却されて元に戻り、再び炉心で熱を受け取るという循環が形成されています。この過程で、管にトラブルが起こると事故につながる危険性が高くなります。特に高速増殖炉の流体は、酸素と反応して化学反応し発火しやすい液体ナトリウムであり、管のトラブルが重大事故につながる可能性があります。
どのような液体が流れるにせよ、管には「詰まる」「破ける」「漏れる」というトラブルがつきものです。その身近な例が血管です。血液が常に流れている血管は、血栓ができて詰まったり破れたりすると、命と健康を脅かします。管のトラブルがなぜ起こるのかを「流体力学」の観点から詳細に解明できれば、それを原子力プラントの配管にも応用できます。そこで現在、血液の流れのような微小なスケールで解明された流体力学の成果を原子力プラントの巨大な配管に適用し、より安全なプラントの建設を可能にする研究が進められています。
新潟大学 創生学部 教授 熊野 英和 先生
電子や光子など、それ以上分割できない粒のことを、量子といいます。量子にはさまざまな特性があり、その特性を生かしてコンピュータや通信、人工知能などへの利用が期待されています。
量子の重要な特性のひとつに、重ね合わせができるということがあります。例えば、量子を使わない古典的なコンピュータでは、0と1を組み合わせて順々に命令や情報を扱います。しかし、量子は0と1を同時に実現できるのです。つまり、量子が2つ並んでいるだけで、古典的なコンピュータでいうところの00、01、10、11を一度に表すことができ、操作を繰り返さなくてよい分、計算が速くなるのです。
また量子は分割できないので、安全な通信に向いています。光ファイバー通信は大量の光に同時に同じ信号が乗っているので、途中で分割されて情報を盗まれる可能性があります。しかし、1個の光子に情報を乗せてピンポイントで相手に送ることができれば、誰にも盗聴されない安全な通信ができます。それを途中で観測しようとすると量子は壊れてしまいますし、また量子はコピーできないので、元の情報をコピーして一部を盗み取るということもできません。究極的に安全な通信ができる可能性を秘めているのです。
また、量子は重ねあわせで多くの状態を一度に扱えるので、何が最小(あるいは最大)となるかを探す、組み合わせ最適化問題との相性が良いとも言われています。例えば、商人がいくつかの地点を回って帰ってくるのには、どのルートを使うのが最も効率がいいか(巡回セールスマン問題)や、薬をつくる際に、どういう分子をつくったら狙った薬効が出るか(たんぱく質の折りたたみ問題)といった問題も、量子を使った計算によって計算時間を劇的に短縮できると考えられます。量子の魅力は、私たちが住む世界の常識では考えられないような現象を引き起こす神秘性にあります。人工知能との相性も抜群で、その特性をうまく利用すれば、科学はますます発展すると考えられます。
京都大学 理学部 准教授 田島 治 先生
宇宙のはじまりでは、高温、高密度の高いエネルギー状態にあった宇宙が、爆発的に膨張したと考えられています。これをインフレーション理論といいます。高温の状態で発せられた光は、宇宙膨張によって波長が伸びます。この光は「宇宙背景放射」と呼ばれ、今でも宇宙に残っていて、地球にも降り注いでいます。それを観測することで、宇宙のはじまりにおける宇宙の密度を計測することが可能です。その密度は均一ではなく偏りがあり、これは量子力学の「量子ゆらぎ」としてとらえることができます。したがって、宇宙のはじまりは量子力学で考察することが可能です。
量子ゆらぎがあるとそれが核となって、宇宙の長い歴史の中で重力によって塵(ちり)などが凝集(ぎょうしゅう)して星が形成されます。星が集まれば銀河ができ、さらに銀河団が形成されます。現在の宇宙の形成には、量子ゆらぎがあることが必須なのです。
観測は、超電導技術を搭載した高性能な電波望遠鏡で行われます。この望遠鏡は、水蒸気と酸素を嫌うため、標高5000mにあるチリのアタカマ高地などに設置されています。観測データを分析すれば、宇宙の膨張によって、どの時期にどの程度のスピードで宇宙が引き離されたかがわかります。そこから、それに費やされたエネルギーも算出することができます。
インフレーション理論は、理論的にも観測事実としても、証明されているわけではありません。しかし、宇宙背景放射の観測によって、インフレーションの事実が明らかになれば、証明されたことになります。また、これまで困難とされてきた重力の量子化の証明にもなります。さらに、地球上では宇宙の初期にあった高エネルギー状態を再現することはできませんが、観測で宇宙の初期に、素粒子物理学でいう大統一理論のエネルギースケールが存在したことが明らかになります。物理学理論の重要な命題の証明にもつながるのです。
山口大学 理学部 物理・情報科学科 教授 西井 淳 先生
速く歩いたり走ったりするには、足の回転数を上げる方法と、振り幅を大きくする方法があります。さて、どちらの方法が良いと思いますか? 面白いことに、ほとんどの動物は、主に足の回転数を上げることで移動速度を速くしていきます。さらに、4足動物の猫や馬、6足動物の昆虫などは、スピードによって歩き方・走り方を変えます。
例えば猫の場合、ゆっくり歩くときは足を1本ずつ上げて前に出します。小走りのときは、左前足と右後ろ足、右前足と左後ろ足、というふうに対角線上の2本の足をほぼ同時に上げて前に出します。速く走るときは、前足2本と、後ろ足2本で交互に地面を蹴ります。速く走るときほど地面に着いている足の本数は少なくなる傾向にあります。なぜこのような足の動かし方を動物は選択しているのでしょうか?
コンピュータを使って多足歩行ロボットのシミュレーションを行い、いろいろな歩き方について消費エネルギーを計算してみると、上述のような歩き方はエネルギー消費を抑える上で非常に理にかなった方法であることがわかります。動物は疲れにくい動き方を自然に選んでいるのです。
もっとも、よく調べてみると、コンピュータで計算される一番疲れない歩き方と実際の歩き方は少しだけ異なっていることもわかります。例えば、坂道を下るときに一番疲れない方法は、身体を丸めて転がることでしょう。しかし、このような動き方をすると大怪我をしてしまうかもしれません。人や動物は無意識のうちにできるだけ疲れないような歩き方を選びつつも、転びにくい歩き方になるように少し力を使っているのです。このような発見は、脳がどのように身体を操って動いているかということの理解だけでなく、リハビリテーション医療の研究や、歩行ロボットの開発にも役立ちます。
研究者、開発者として働く働き方や開発の手順などを大学生のうちから経験できるのではないかと思ったから。
原子力を学べる大学のなかで一番設備が整っており就職実績も良かったため。
フィールドスタディーズなどの課題発見、解決型学習の充実
創生学部は既存の学問の分野に縛られることなく、複数の分野をまたいで学べるのがとても魅力でした。
理学部は学科選択までに1年間あり、様々な分野を学ぶ機会もあり、学び、視野が広がるから。
宇宙物理学を学びたいから
学びたい分野(大学では、宇宙や化石や史学など理系的観点から学びたかった)があったので、進学先に決めた。
数学を専門的に学びたいから
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系)
物理が好きでこれを学べる学校にいきたかったから
AIや情報通信などこれからの社会のニーズと自分の学びたいことが合致していたから