人間・動物・植物・微生物などの生命体を対象に、自然界での活動や、個々の生体現象を解明する学問です。遺伝子レベル、細胞レベル、内部器官の機能や構造、生物の行動や生態など、顕微鏡の中のミクロの世界から野生の動植物の生息地域の現地調査までもが研究対象です。生態と環境の関係など、生物を取り巻く環境との関わりもテーマとなります。
生物を対象に、系統的に分類する「分類学」、進化を研究する「進化学」、生態を解き明かす「生態学」、行動を分析・研究する「行動学」。生体を対象に、その仕組みを解明する「生化学・生理学」、生命の誕生や器官形成を探る「発生学」、遺伝子の役割を解明する「遺伝子学」、細胞を対象とする「細胞生物学」や「分子生物学」などの分野があります。クローンやゲノム、再生医療などの研究分野とも深い関連があります。
企業に就職する場合にも高い専門性が求められるので大学院に進む人が大半です。医薬品・食品・化粧品・醸造などの分野で商品開発という進路が開けています。研究者として大学に残る人や、公的な研究機関に入る人もいます。
東京大学 生産技術研究所 情報・エレクトロニクス系部門 教授 小林 徹也 先生
生物学では、とても大きな技術革新が起こっています。そのひとつが「バイオイメージング」です。これは21世紀に入ってから爆発的に発展した技術で、ノーベル化学賞を受賞した下村脩博士がオワンクラゲを使い発見した蛍光タンパク質を主に使います。それを研究対象の細胞に組み込んで細胞の核や神経などを可視化し画像を作成する技術です。1990年代に、このタンパク質を作る遺伝子が同定されたことで、現在では広く普及しています。
以前の顕微鏡では、細胞の核だけとか縁だけといった特定のものを見るのはとても大変でした。しかし、蛍光タンパク質のおかげで、好きな分子だけを見られるようになりました。現在はいろいろな色の蛍光タンパク質ができているので、複数のものを同時に見ることもできます。
また、この方法では細胞を壊さずタンパク質を見ることができるので、時間の経過でどう変わるかを見ることもできるようになりました。
この技術によって、今まで見えていなかった現象が見られるようになりました。例えば魚の発生において、初期の細胞分裂はリズムが同期しているけれども、ある時期になるとバラバラになることや、別の研究では、従来見ることのできなかった、脳の深い場所の神経構造などがわかってきたのです。
これまで神経や細胞のミクロな生物学はこれまで生物学の専門家だけのものでした。しかし、数学者や物理学者など、非生物学者がイメージングのデータを介してこうした研究にアクセスできるようになり、新たな視点から生物学へのアプローチが行われるようになりました。膨大な画像データを解析し、神経や細胞一つひとつの活動がどう関連するかを調べることができるようになりました。
こうした研究がうまくいけば、神経活動や発生の振る舞いを予測する方程式のようなものが立てられるかもしれないと考えられています。
東京都立大学 理学部 生命科学科 教授 田村 浩一郎 先生
過去に存在した生き物について調べるには、発掘された化石からしかアプローチできないわけではありません。鍵を握っているのは、生物の設計図である「ゲノム」です。例えば恐竜のゲノムを直接調べられなくても、恐竜の子孫と考えられている生物種のゲノムから恐竜がどのような遺伝子を持っていたのか、高い確率で推定できるようになってきました。生命の誕生以来、途切れることなく伝え続けられてきたゲノムを解析すれば、ゲノムの変化によって生物がどのように進化を遂げてきたのかを垣間見ることができます。
ゲノムの遺伝情報は、構成するDNAのA(アデニン)、 T(チミン)、 C(シトシン)、 G(グアニン)という4種類の塩基の並び順(塩基配列)によって決まります。塩基配列が、生物の進化過程でどう変わってきたのかを解析することを分子系統解析と呼びます。大量の配列データの解析が可能になった現代では、その解析方法の理論的研究も重要で、また解析のためのコンピュータソフトウェアの開発も盛んです。このようにバイオ(生物学)とインフォマティクス(情報学)を合わせた研究分野を「バイオインフォマティクス」と呼びます。現代の生命科学にはなくてはならない重要な分野です。
系統樹を推定して生命システムの進化を解析することは、新たに生じた病気の原因となっているウイルスや病原菌がどのように発生したかを調べるときにも役立ちます。大量のゲノム情報をどう解析し、生命システムの進化を系統樹として表現していくかは、世界中で研究者たちが取り組んでいる大きな課題です。これは、膨大なデータ処理の精度と計算効率を高め、いかに正しい情報を引き出すかというエンドレスな研究です。
従来は生物学と情報学それぞれのエキスパートが共同して取り組んできましたが、これからは両学問を融合させたバイオインフォマティクスを最初から専門に志すことが必要になるでしょう。
愛媛大学 工学部 応用化学科 教授 堀 弘幸 先生
親から子、孫には、顔や手足の形といった体の特徴や性格など、何らかの性質や形が伝わります。この伝達、遺伝に大きく関わっているのが、「DNA」です。DNAには、生き物の性質や特徴などの遺伝情報が格納されています。DNA上の遺伝情報は、「RNA」という物質を介して、人間が生きるために必要なタンパク質へと変換されます。この一連の流れを「セントラルドグマ」と言います。
遺伝情報を転写されたRNAは、編集加工されて、初めて細胞の中で役に立つ状態になります。セントラルドグマの原理が提案されたのは1957年のことですが、RNAが編集加工され、人間の体の中で機能する過程は、今でも最先端の研究テーマです。
例えば、ヒトとチンパンジーの遺伝子は、約99%が同じで、違いは1.23%のみです。もしRNAが、遺伝情報をただコピーするだけなら、両者は99%同じ存在となるはずですが、実際は大きく違います。それは、RNAの編集加工や制御の方法が違うからだと考えられています。
もっとも多彩な編集加工を受けるRNAに転移RNA(tRNA)があります。tRNAは、タンパク質合成装置リボソームにアミノ酸を供給し、同時に伝令RNA(mRNA)に写し取られた遺伝情報を読み取る装置でもあります。tRNAでは、編集加工の一つとして、メチル化やアセチル化などさまざまなタイプの修飾を受けますが、これらtRNA修飾の異常は、ヒトではさまざまな遺伝病の原因となることがわかってきました。また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、tRNAのメチル化を利用して感染することもわかっています。このため、tRNA修飾の研究は、遺伝子診断・遺伝子治療の開発に直結し、感染症対策でも重要な分野になっています。さらに、tRNA修飾は、生物ごとに大きく異なり、生命の多様性や進化、環境応答を考察する上でも重要になっています。
九州大学 共創学部 共創学科 教授 荒谷 邦雄 先生
クワガタムシ(以下、クワガタ)というと、多くの人が特徴的なオスの牙(きば)を思い浮かべると思います。しかし、クワガタには多種多様な形態があります。牙の形もさまざまで、牙のないクワガタもいます。大きさも多様で、ごく小さなクワガタもいます。では、クワガタを識別する特徴は何かといえば、触角(ひげ)が「肘」のように曲がっていることと、腹板(お腹の板)が5つあることです。一見、クワガタとはとても思えない種にもこの特徴は共通しています。さらに、形態だけでなく、生態や繁殖行動も多様です。
オスの牙の形態に多様性をもたらしているのは、さまざまなケンカの方法です。逆に言えば、ケンカの方法が似ていれば、異なったグループでも牙の形が似てきます。ケンカの目的は繁殖やエサ場の獲得です。チビクワガタは、夫婦が一緒に子どもを育てます。チビクワガタの祖先のオスには牙が発達していましたが、一夫一妻でケンカの必要がないため退化してしまいました。クワガタは、このように環境に適応して形態や生態、繁殖行動を変化させることで、それぞれのグループが独自に進化していったのです。
またその際、近縁種同士の生息地が近い場合は、交雑を避けるために、オス・メスの生殖器の形を極端に変えます。その結果、それぞれの種が生き残り、1500種ものクワガタが生まれました。
このようなクワガタの進化は、生物多様性の進化を凝縮したものです。しかも、これほど多様な種が発生する確率は、偶然に近いほどの低い確率です。その意味で、人間の勝手な振る舞いで、この奇跡とも言える進化の歴史を台無しにすることは許されません。
ペットショップなどでも売られている海外のクワガタが逃げ出すと、日本のクワガタが競争に負けたり、病気や寄生虫を移されたり、交雑が生じたりして、日本のクワガタが絶滅するばかりか、日本の生態系そのものが破壊されてしまう恐れもあるのです。
施設が新しく、学部学科の人数に対して施設が充実しているから。
理学の中で、やりたい研究室がある事が1番の志望でした
最先端の研究に触れながら、思いっきり生物が学べるから。
生物学の中でもヒトに焦点をあてた人間生物コースがあったこと。また、そのコースも含め、コース別の学習になることで自分が専門的に学びたい分野を深めていくことが出来ると思った。
生命機能科学についても学べそうであるから
工学部は学科がなくなったので一年の間に自分のやりたいことをしっかり考えて自分の進路を決めることが出来るから
あらゆる国際的な問題の解決策を考えることができると知って、九州大学の共創学部を志望した。
研究テーマに沿って自分でカリキュラムを組むことができ、文理問わず様々な学問を学ぶことができるから。
東京大学 理科二類
自分が興味のある生物情報学系の研究室があり、知名度の高い大学であるため
生物の研究者になりたくて、さらに様々な知識や経験を得たいと考え