医学と工学を融合した新しい学問で、医療現場での検査・診断・治療・リハビリや介護のための精密機器・器具、生命維持装置、医療用ロボット、人工臓器、医療に関する技術・システムなどを研究します。医用工学科や医用生体工学科だけでなく、機械工学科で医療用のロボットや精密機械などを学ぶ、材料工学科で医療用素材やインテリジェント材料を学ぶ、生命科学科や生命工学科で人工臓器・人工組織を学ぶなど、学べる学科は多岐にわたります。
医用工学と近い学問である生体工学は、生物の体の複雑な機能や構造を研究・理解し、用途を医療に限定せずに、新しい知見の発見や技術開発、それらを応用した製品開発などに取り組む学問です。人工臓器や人工組織の開発などは生体工学の領域でもあるため、医用工学と重なる研究領域も多くあります。
医用工学は、医療機器などのメーカーに就職する人が多く、臨床工学技士やME技術者の資格を取得して医療現場で働く人もいます。生体工学は、医療・健康産業に限らず、化粧品・食品・繊維・精密機器や情報・システム関連など、幅広い業種が就職先となります。
東北文化学園大学 工学部 臨床工学科 教授 工藤 剛実 先生
現代の医療は、高度な医療機器が欠かせないものとなっています。心臓の手術で使用する「人工心肺装置」もそのひとつで、手術時に止める心臓の代わりに、心臓や肺の機能を代行する生命維持管理装置です。
人工心肺装置に関する医療事故で、患者に重大な影響をおよぼす医療事故の発生率は約0.05%です。ほかの医療事故と比べてかなり低いものの、その0.05%に自分や大切な人が該当してしまったら、どう思うでしょう。心臓手術の事故は命に関わるため、限りなくゼロに近づける必要があるのです。
人工心肺装置には複数のモニターやパネル、スイッチが配置されています。機器の安全性を高めるには、こうした医療機器を扱う「臨床工学技士」の動線や視線の動き、操作性といった人間工学的な観点から検証して設計・デザインを検討していきます。
機器を操作する人のストレスも、その操作に影響を与えます。聞き取りや心拍数の計測、唾液の成分などからストレスの状態を調べると、後ろから声を掛けられたときや、患者の心臓の動きを再開させるときなどに、ストレスが高まることがわかりました。その対応策はもちろん、操作自体のストレスも軽減することが、医療事故を減らすことにつながります。
さらに、血液を送り込むポンプのなかに、わずかでも気泡が入ったら重大な事故につながります。機器の扱い方も細やかに検証して注意点を周知させることで、事故防止の意識を高めていきます。
高度な医療機器はほかに、人工呼吸器、人工透析装置などがあり、いずれも命に関わる機器です。それだけに、工学と医学の知識をもつ臨床工学技士の役割が重要視されています。
今後はAIも導入されていくでしょう。危険を予測する、臨床工学技士の動きをサポートするなど、AIの活用法の検証も始まっています。最新技術により、機器はますます進化します。その対応とともに、常に安全な医療を提供するための取り組みも欠かせないのです。
福井工業大学 工学部 原子力技術応用工学科 教授 砂川 武義 先生
がん治療では、体に負担のかかる外科手術ができない場合、放射線でがん細胞を退治する放射線治療が行われます。最近では放射線治療機器も性能が上がり、コンパクトになってきたため、規模が小さい病院にも普及してきました。
しかし、患部に正確に放射線を当てるには、放射線量を測ってその数値を見ながら位置や放射線量を調整するなど、機器を扱う専門的な知識と技術、経験が必要です。そのため医療現場では、熟練者でなくても機器が扱えるように、そうした技術的なハードルを下げることが求められてきました。
そこで開発されたのが、「PVA-KIゲル線量計」です。洗濯のりにも使われているポリビニルアルコール(PVA)という安価な物質が主原料で、ホウ砂という鉱物を加えるとゆるく固まり、スライムのようになります。そこにヨウ化カリウム(KI)を入れることで、放射線を当てると赤く変色します。これは、放射線照射によりヨウ化カリウムからポリヨウ素イオン(I??)が生まれ、PVAに含まれる酢酸基と結びつくと発色するのです。さらに、果糖を加えることで、50℃程度の熱を加えると無色に戻るという画期的な機能が生まれました。
この「スライム線量計」は、人体と同じく約70%以上が水であり、様々な形状を自由につくれるので、より人体に近いものでの試験ができます。また、色で判断できるため、医療機器に詳しくない人でも正しく照射できているかがひと目でわかります。熱で無色に戻るので繰り返し使うことができ、医療廃棄物を減らせるメリットもあります。さらに、人体にとって安全な物質でできているので、手軽に扱うことができることも優れた点です。
近い将来、このゲル線量計が普及すれば、街の小規模な病院でも放射線治療が受けられる日が来るかもしれません。また、原子力発電所の廃棄物の問題や、汚染された土壌の除染などにも、こうしたゲル線量計が応用できると期待されています。
お茶の水女子大学 共創工学部 人間環境工学科 准教授 秋元 文 先生
ゼリーや寒天など身の回りにあるプルプルしたもの、これらはみんな「ハイドロゲル」です。ハイドロゲルは、水に溶ける高分子がお互いに連結(架橋)して3次元構造を作り、その内部に水を含んだ、柔軟性のある材料です。人間の体の中もゲルであると言えるため、ハイドロゲルは生体材料としての応用が期待されています。ハイドロゲルの大きな特徴は、ゲルの表面・界面を介して物質の行き来が可能な「開放系」材料であることです。物質が出入りすることでゲルの構造や物性はダイナミックに変化し、機能を提供します。
研究では、合成化学の手法でゲルの表面・界面をデザインして、生体材料に適した機能を持つゲルの条件を探ります。よい材料が出来上がると、実際のゲルの構造や物性を解析してその機能との関係を調べます。ゲルの表面の構造や物性の解析は、技術的な難しさなどからこれまであまり確立されていませんでした。そのため、ゲルの表面の接着性や粘弾性といった性質を正確に評価できるような解析装置の開発も進められています。
ゲル表面を適切にデザインすることで、表面をネバネバさせ、接着性を増すことができます。このように作ったゲル表面は、皮膚に接着させて使用する医療用テープとして活用させることなどが期待できます。
また、デザインされたゲル表面は「人工細胞外マトリックス(ECM)」として活用することもできます。ECMとは細胞の外に存在する物質のことで、糖やタンパク質のハイドロゲルです。これまでECMは細胞と細胞の単なる「つなぎ」にすぎないと考えられていましたが、近年の研究により、例えば生物の発生段階ではECMのダイナミックな動きがみられるなど、生命現象を主体的に駆動している可能性があることがわかってきました。材料工学の視点からゲルであるECMを研究して、人工ECMの医療応用や生命現象の理解につなげようとしています。
大阪大学 工学部 応用理工学科 マテリアル生産科学科目 准教授 松垣 あいら 先生
骨折や関節の機能障害などの治療の一つに、手術で人工の骨デバイスを入れる方法があります。人工骨の材料には金属が使われることが多いのですが、その強度が高すぎると周りの骨に力がかからなくなる「応力遮蔽(しゃへい)」が生じて周りの骨がやせ細ってしまうといった問題が起こります。人工の骨をいかに元の骨と一体化させるかが重要なのです。そこで、骨の構造を原子レベルから明らかにして、さらに骨を作る細胞の仕組みから深掘りすることで、生体の骨に限りなく近い人工の骨を作る研究が行われています。
生体の骨の主な構成成分は、ベースとなるコラーゲンと、その周囲に六方晶系の結晶構造を作るアパタイトです。このコラーゲンとアパタイトの構造には方向性があり、その向きが骨の強度を決定しています。骨は骨芽細胞によって作られますが、骨芽細胞が一定の向きを持って並ぶことで、方向性を持った骨ができます。骨芽細胞をうまく操作することができれば、体内に入れた金属の骨の表面に患者本人の骨芽細胞を適切に並べて、元の骨と一体化するような骨を作れるようになります。まずはネズミの骨芽細胞を使って、体外でチタンなどの金属表面に並ばせて、生体と同じように骨が作れるかどうかが調べられています。骨芽細胞は周囲の形状を探知できるため、段差や溝などを金属表面に作り、それに沿って並ばせることができます。また、骨芽細胞が正しく並ぶためには、骨を壊す破骨細胞や、応力を感じる骨細胞からのシグナルが必要であることもわかってきました。
一方で、人工骨の金属部分も生体の骨に近づけなければなりません。金属3Dプリンタ技術を使えば、表面の溝などの加工だけでなく金属の原子の向きも調整できるので、より本物の骨に近い強度の金属材料が開発されています。
今後はさらに、細胞が骨を作る仕組みの解明や、骨の状態をモニタリングして骨の病気を早期に発見できる技術の開発なども目標とされています。
九州工業大学 工学部 応用化学科 准教授 城崎 由紀 先生
地球の地殻中に多く存在するケイ素は半導体の材料として知られていますが、哺乳類にとっては骨の成長などに欠かすことができない必須微量元素でもあります。骨の再生を助ける人工骨の材料にケイ素が主成分のガラスを用いると、溶け出したケイ素が体内のリンやカルシウムイオンと反応して、ほかの材料の人工骨よりも成長が早くなることが知られています。しかし体の中に存在するケイ素は非常に微量であり、その体内でのふるまいはよくわかっていません。
ガラスの人工骨は骨の成長を促すとはいえ、硬くてもろいため大きな骨には使えません。ケイ素の4本の手をすべて酸素と結合させた構造はしなやかさに欠けます。しかし、ケイ素と結合している酸素を、炭素に置き換えれば柔軟性は増します。ガラスから溶出するケイ素はオルトケイ酸の形で、細胞を刺激すると考えられています。その一部を、いくつまでなら炭素に置き換えても細胞活性に効果があるのか、かつ体に悪影響がないのかがわかれば、柔軟性のある「生体組織再生材料」に利用できます。そこで、生体材料の抽出液を用いて、ケイ素を含む分解物の構造が明らかにされました。さらに、その抽出液を骨や神経などの培養細胞に与えたところ、成長促進に効果のあるケイ素の構造は細胞の種類によっても違うことがわかりました。
細胞内でのケイ素の構造などについての基礎的な研究を行うためには、細胞内の微量なケイ素を検出する必要があります。酸素を炭素に置き換えたケイ素が、実際に細胞の中に取り込まれたかどうかを確認するのは容易ではありません。細胞の成長に影響があるケイ素濃度があまりにも低いため、検出が難しいのです。電子顕微鏡などを用いて直接細胞を観察することは有力ですが、微量であることが原因で、試料を作る段階で使用する試薬などの影響が大きく出てしまうといった問題があります。そのため、観察用の試料作製法が模索されています。
私は同志社大学で「生命」という幅広い学問を学び、純粋な医療だけに留まらず生物学など人間に関わる課題を究明し、健康寿命を伸ばして社会に貢献したいと考えているから。
自分のやりたい研究内容について他の大学より深く行うカリキュラムがあったため。
元々柔道整復師かトレーナーかリハビリ関係の仕事をしたいと考えていた。高校に入り物理を学んでいったことで上記の3つか大学で工学を学ぶか迷っていたとき、どちらも学べる医用工学を知りその魅力にひかれたから。
研究設備が豊富。
専門的な知識を深めたいという欲求から、工科大学を選びました。医工学プログラムが充実しており、私の学びたい分野に合致しています。
希望している学科があり、交通環境が整っていて、教育課程の魅力に惹かれ、ここなら将来のやりたいことに繋がると思った為。
診療情報管理士として、社会で活躍していきたいと思い、その資格取得に向けてサポートしてもらえる鈴鹿医療科学大学を志望しました。
医療系の学科を多くもっており、チーム医療について学べると感じたから。
東京農工大学 工学部
医工学を専門的に学びたかったことが1番大きな理由です。一般的な工学部では学べないような、臨床医学についても学べるため、医療機器開発に興味がある私にとってはとても魅力的に感じました。
実際に学校を見に行った所非常に雰囲気が良く、研究実績や就職実績が良かったから。