応用物理学は、これまでに得られた物理学の原理や理論、解明された物質の構造や性質、現象や法則を活用して、実際に社会で役立つ技術を研究・開発する学問です。物理学は理論や法則を解明するために実験や考察を行う側面が強いのに対し、応用物理学はより実用的な側面をもち、製品や技術を開発することを主目的とするので、産業や経済分野とも深く関わっています。
代表的な研究分野には、超伝導や半導体などを対象とする「物性物理」、電子素子物理・電気回路について研究する「計測・エレクトロニクス」、情報理論や数理モデルに基づく「情報・制御」などがあります。応用物理学はトランジスタや半導体レーザー、高性能磁石などを生み出し、技術の未来を切り開いてきました。大学での学びは、材料、機械、情報といった領域の、工学的な科目が中心です。
理学・工学の両方を学ぶので多種多様な業種への応用が利きます。電気・電子機器、通信・コンピュータ関連、化学、鉄鋼、自動車などの製造業で活躍する一方、データ分析能力を生かして金融・保険業などで活躍する人もいます。
上智大学 理工学部 物質生命理工学科 准教授 堀越 智 先生
電子レンジはマイクロ波を食品に当てて、そこに含まれる水分子やイオンなどを振動させることで食品加熱する家電です。マイクロ波とは人工的な電磁波の一種で、マグネトロンという発振器から発生させます。しかし、マイクロ波の強さや周波数が不安定で、食品をおおよそ加熱することしかできません。最近は、食事に個食化が取り入られており、食材へのこだわりだけではなく、各食品の適温加熱が求められています。そこで、携帯電話などに使われている、揺らぎのないマイクロ波を発生させることができる「半導体式発振器」を改造し、電子レンジに応用しました。お弁当の一つひとつの食品を適温に自動加熱したり、アイスクリームを自動的に食べごろの柔らかさにしたりできる「インテリジェント電子レンジ」が実現しました。
そんな揺らぎのないマイクロ波を植物の種や苗に当てると、その植物の成長が速くなったり、害虫を寄せ付けない物質を出したりすることがわかってきました。これは、マイクロ波を浴びた植物が軽いストレスを感じ、子孫を残すために成長のスピードを速め、外敵から身を守ろうとする防御機能があらかじめ働いたためです。
DNAの組み換えなどの影響が出ないこともわかっており、特に食用植物の栽培にうってつけです。植物の状態はいつ、どうやって、どの程度のマイクロ波を種や苗に当てるかによって違ってきます。今後はAI(人工知能)なども利用しながら、理想的な生育となる当て方を解明していくことになるでしょう。
植物に限らず、マイクロ波の利用は化学や生物、環境、物理などに関わる分野で、これまで不可能と思われていたことが現実になったり、全く新しい「ものづくり」を省エネルギーでできたりするかもしれません。
マイクロ波は解明されていないことが多い研究分野ですが、日本が世界を先導しています。さまざまな産業学問分野が一体となって研究を行い、世界に誇れる技術として発展することが期待されます。
電気通信大学 情報理工学域 III類(理工系) 物理工学プログラム 准教授 丹治 はるか 先生
室温では、気体原子は数百m/s程度、音速くらいの速さで飛び回り、いろいろな波長の光を吸っています。しかし、絶対零度近くまで冷却すると、原子はほぼ静止状態になり、特定の波長の光のみを吸うようになるため、その波長の光を当てれば原子内部の電子の軌道を制御することができます。
逆に言えば、冷却された原子では、電子がエネルギーの高い軌道から低い軌道に移りエネルギーを失うときに吐き出される光の波長が指定されるということになり、このことを利用すれば原子から特定の波長の光を取り出すことができます。
原子を用いた光の操作は、光の粒、一粒一粒を取り出す技術の開発につながります。この光の粒を「光子(こうし)」と言い、一粒単位で自在に取り出せるようになると、量子計測や量子コンピュータ、量子暗号通信の技術を実現するのに役立ちます。
例えば量子暗号通信において、光子の一粒一粒に情報をのせて通信するとします。すると、誰かが光子を盗み取って内容を見た後、ひそかにまた元に戻すことはできません。なぜなら、状態が確定していない光子にのせて運んでいた情報は、誰かが見た瞬間に光子の状態が確定することで変化してしまうからです。つまり、量子通信では、情報を盗み見た瞬間にその事実が記録されてしまうのです。
量子力学の世界ではほかにも、古典力学では考えられない不思議な現象が見られます。その一つに、光子が0個の場合でも、光子1/2個分のエネルギーが存在するということがあります。つまり、何もないはずの空間にエネルギーが存在しているのです。そこで、反射率の高い鏡と鏡を向かい合わせて光がその間で往復してほとんど漏れ出さない空間(光共振器)をつくると、光子を取り除いても、まるで光がそこにあるかのような現象が観察できます。こういった量子力学の不思議さをうまく使えれば、今まで難しいとされていたさまざまな技術が実現可能になるかもしれません。
東京都立大学 理学部 物理学科 教授 柳 和宏 先生
1990年代から、分子や原子という極小の世界を扱うナノテクノロジーの研究が盛んに進められるようになりました。しかし、ナノ物質の研究自体は、1970年代から行われていたのです。当初は、グラファイトと呼ばれる、炭素が層状となった化合物が研究対象となっていましたが、1985年に、フラーレンというサッカーボール状の構造をしたナノ物質が発見され、さらに1991年にナノチューブという筒状のナノ物質が発見されると、ナノ物質の研究が飛躍的に盛んになりました。
ナノチューブとは、網の目のように結合した原子が筒状の構造になったナノ物質です。筒の直径は約1ナノメートル(10億分の1メートル)であり、筒の巻き方など、その構造によって性質は大きく変わります。
炭素原子でできた「カーボンナノチューブ」を使うと、非常に軽くて丈夫な物質ができるため、ゴルフクラブやテニスラケットなどの素材として実用化されています。将来的には、地上と宇宙空間をつなぐ「宇宙エレベータ」の材料として使えるのではないかと期待されています。カーボンナノチューブは構造によって性質が変わり、電気を流しにくい半導体のものや、電気をよく流す金属のものがあります。半導体の性質を持つものは次世代コンピュータの素材として使用できます。また、チューブ構造は表面積を大きくとることができるので、電気伝導性があるものは大容量のバッテリーに活用することができると考えられています。
まさに夢の物質とも言えるカーボンナノチューブですが、実は、大量生産が極めて難しいことが、実用化への障害となっています。カーボンナノチューブを少しずつ作ることはできますが、それも、さまざまな種類のカーボンナノチューブがばらばらに混ざった形で生み出されているのが現状です。同一の構造のカーボンナノチューブを、ある特定の方向性を持つそろった状態で大量に生産する方法が確立されれば、次世代のブレイクスルーが実現できると言われています。
長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 機械工学分野 教授 井原 郁夫 先生
登山のとき、「ヤッホー」と叫ぶと周囲の山に声が反射して「ヤッホー」と戻ってきます。その際の音量や角度、戻ってくるまでの時間を綿密に測定・計算すると、周囲の山の形状や位置を割り出すことができます。妊婦さんのおなかにいる赤ちゃんの状態を調べる超音波検査の原理はこれと同じです。
音は高くなるほど同じ方向に真っすぐ進む習性があるため、超音波を使うことでより正確なデータを拾うことができます。加えて人体への安全性が高く、対象物を壊さずに中の状態が調べられるという利点があるため、大型車両や航空機、橋など大きな構造物の内部亀裂を見つけるのにも超音波が使われています。
また花火の「音」に注目すると、夏と冬では音が聞こえるまでの時間が違います。空気の温度が変わると音が伝わる速さなども変わるからで、この温度と音の相関関係を利用すれば、物の温度変化を追うこともできます。空気以外にも、素材のどこまで熱が通っているかをリアルタイムで調べられるので、加熱中の素材の状態を調べるといったこともできます。ただし、あらかじめ何の温度を測るのかを設定する必要があるため、「○○専用」のように特化させる必要があります。
測る対象物が決まっていて、それに対しての準備とある程度のコストが必要という点を踏まえると、産業界での利用が現実的でしょう。音は空気中よりも液体や固体の方がよく伝わるため、プラスチックや金属を溶かして固めるときの温度、固まり具合の計測にも向いています。
何を生産するにも温度管理は重要です。材料の温度変化を追うことができれば、その情報を生産プロセスにフィードバックし、効率よく質のよい製品をつくれるようになります。これがよく言われる「IoT(モノのインターネット)を使ったものづくり」の根幹であり、コンピュータで生産を管理するにはセンシング技術が大きな役割を担うのです。
2年になってから具体的なカリキュラムを決められる
日本で先端研究をする上での知識や技術をしっかりと教えてくれるところ
理学部の論文の質の高さに惹かれたから。自分は理学部で研究に力を入れたいと思っていたので決め手となった。
一年次から研究が可能
とても良い環境で工学に特化した学習ができるから
設備が優れており、教育内容が素晴らしく、就職にも抜群の強さがある。
オープンキャンパスで、講義やディスカバリー人材育成コースの説明をうけて魅力を感じた。
1つのキャンパスにたくさんの学部が設置されているので、沢山の交流に恵まれると思ったの1つの動機です。
上智大学 理工学部
文理融合のカリキュラムが組まれているため理系にいながらも文系の授業が受けられる点が非常に魅力的でした。
データサイエンスプログラムに興味があったため。