水産学では、海や河川の有効利用および、魚介類などの水産生物資源の生産技術を学びます。特に海洋生物資源の状況は乱獲や環境の変化によって厳しい状況に追い込まれ、国際的に捕獲が禁止されたり、漁獲量制限の動きもあります。そのため、「獲る漁業」から「育て、増やす漁業」への転換を図り、魚の品種改良や海洋環境保全の研究も進んでいます。
研究分野は、漁業・水産資源学、水産環境学、増養殖学、食品生産学などに分かれています。廃棄されたり、これまで利用されてこなかった海洋性プランクトンや魚、海藻などの水産資源の有効活用を研究する分野では、有効成分の抽出などの研究が成果を上げ、食品に限らず、化粧品や医薬品、エネルギー関連分野での資源利用も進んでいます。
水産会社、食品産業、流通業、水産科学関連企業などで、研究者や技術者としての活躍が期待されています。養殖場、海洋環境調査会社、水質検査会社、漁業組合などで働く人もいます。難関ですが、水族館への就職希望者も少なくありません。
東海大学 海洋学部 水産学科 教授 秋山 信彦 先生
日本の漁業は今、さまざまな課題に直面しています。漁獲量が大きく減少する中で、海外の魚が食卓に並ぶことも多くなりました。
そこで、養殖の研究が進められています。人工的に生けすで育てる養殖は、海の生き物を取り過ぎてしまうことを抑制しながらも、安定した質と漁獲量を維持することができます。ところが、海を利用して大量に養殖すると、生態系に影響を及ぼし、赤潮の発生原因となってしまったり、淡水が生けすに流れ込んで養殖の魚が被害を受けたりというリスクも持ち合わせています。そこで注目されているのが地下海水を使った「陸上養殖」です。
地下海水は水温が一定で、細菌も少なく、安定的に供給できる大変良質な資源です。そこに着目し、さまざまな生物の地下海水による陸上養殖の研究が行われています。ここで重要なのは、天然ものやほかの海中養殖の魚と比べ、いかに付加価値を付けるか、という視点です。まず、高価なヒラメは浅い水位で養殖できるので陸上養殖向きです。また、低水温に弱いカワハギも向いています。珍味とされるカワハギの肝(きも)は、天然の海では夏になると小さくなってしまいますが、一定水温の地下海水による養殖では夏でも冬と変わらぬおいしさを提供できるのです。このように付加価値を付けることで、陸上養殖の価値が高まります。
現在、地下海水を使ったクロマグロやサーモンの養殖の研究も進んでいます。人工飼料と地下海水で育てることで、陸上養殖の可能性が模索されています。もし陸上養殖に成功すれば、きれいな地下海水で育てることで寄生虫の心配がなくなるので、サーモンを冷凍せずに生で食べることも可能になります。どうやったら陸上養殖で安定的に成長できるか、日本の漁業の将来を見据えた研究が続いています。
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 教授 坂本 崇 先生
現在、世界中で消費されている動物性タンパク質のうち、およそ3分の1を魚介類が占めています。しかし、FAO(国連食糧農業機関)の試算によると、2030年には、必要とされる魚介類のうち約5000万tが人口増加などによって不足するとされています。つまり、養殖業をより効率化しないと、消費に追いつかないということです。養殖業は今、世界的に注目され、伸びている産業であるとともに、豊かな食生活の実現のために、今後ますます重要になっていく産業でもあります。
農業や畜産の世界では、数千年以上も昔から、家畜化すなわち「育種」が行われてきました。育種とは多数の個体の中から、「成長が早い」「病気に強い(耐病性がある)」など、人間にとって役に立つ性質を持った個体を選抜し、交配することで、より有用な種を育てる作業です。その結果、現代の穀物や家畜は、野生種ではあり得ないほど成長も早く、病気にも強くなっています。
水産業では、人為交配により仔稚魚を作り、育てるのが難しいなどの理由から、なかなか育種が進んできませんでした。しかし現在では、ウナギやマグロのような魚でも完全養殖が可能になり、さらに養殖魚のゲノム解析が進んだため、耐病性形質を左右するゲノム領域を特定し、遺伝マーカーにより耐病性形質の有無を調べて選抜する「マーカー選抜育種法」が可能になってきました。この方法は、効率的に確実に病気に強い品種を作れるだけでなく、耐病性形質のメカニズムの解明にもつながります。
ゲノム解析による育種はかなり進んでおり、2008年に出荷された養殖ヒラメの約3分の1が「マーカー選抜育種法」で生まれた耐病性ヒラメだというデータもあります。日頃食べているヒラメの多くが、こうして育種された耐病性ヒラメだということです。
FAOは、「天然資源に極力影響を及ぼさないような方法によって食糧をまかなうべき」と提唱しています。ゲノム解析の進歩によって、そんな将来に近づきつつあるのです。
福井県立大学 海洋生物資源学部 海洋生物資源学科 教授 横山 芳博 先生
海や湖沼には、多種多様な微生物や魚介類、藻類などが生息しています。これら、水圏における物質の循環や生物の動態、環境の保全を研究する学問が、海洋生物資源学です。そして、これらの研究を踏まえて、地域の海や湖と関わる水産業や水産加工業などへの応用を見据え、生化学、食品化学、加工技術、資源利用、水産物流通などを研究するのが、水産資源利用学です。
水産資源利用に関しては、課題が山積みです。例えば、海洋の魚自体は減ってきています。海の広さは無限ではなく、その海の中で生産される魚の量は決まっている上、魚は、海にいるほかの生物がエサにする以外に、人も利用するからです。以前は、漁獲量の最も多い国は日本でしたが、現在は中国です。利用する人が増え、魚が足りなくなっている状況があるため、水産資源の持続的な利用が求められています。
とはいえ、養殖が増えており、一見、漁獲量はそれほど変わっていません。ただ、今度は養殖のエサをどこから調達するかが問題となります。また、漁の際に魚に交じって捕獲されるクラゲやヒトデ、海藻などの未利用や、低利用の資源の処理なども課題です。
これら未利用、低利用の海洋生物資源を活用するための研究も行われています。例えば、クラゲから抽出されるレクチンという物質を薬に応用する研究や、陸上生物と魚のコラーゲンの特質の違いに注目した研究などがあります。
また、魚介類の死後変化に関する研究もあります。魚介類が死後どのように変化するかを調べ、おいしさ、新鮮さが長持ちする状態で市場に出荷する最善の方法が模索されています。新鮮さや味には神経活動にともなう筋肉の収縮が関係し、食感は血液と関係があります。神経を壊すタイミングと脱血の組み合わせで、品質さえコントロールできるのです。さらに、保存の温度も関係しています。そして、このような魚のおいしさを保つ方法の研究などは、地元の水産業に還元されているのです。
広島大学 生物生産学部 生物生産学科 准教授 海野 徹也 先生
クロダイは、瀬戸内海で日本全体の約60%が捕れます。ただ一時期捕れなくなったため、1983年頃から稚魚の放流が行われるようになりました。放流は成功しましたが、今度は数が増えすぎてしまいました。クロダイは、昔は高級魚でしたが、今では値段が下がってしまって漁師さんが進んで捕ることはありません。それだけでなく、クロダイは養殖の牡蠣を食べるので養殖業者からは嫌われています。ただ、放流魚としては貴重なデータを提供してくれる魚です。一般的に放流で成功することは少ないため、成功の理由がわかればほかの放流魚の参考になるからです。
クロダイの放流は広島湾で行われていますが、そこには太田川から栄養豊富な水が流れ込んでいます。また、湾の半分くらいは塩分濃度が低い汽水(きすい)です。クロダイは海水領域で卵を産み、稚魚は汽水で育ちます。ほかの魚、例えばマダイは汽水には入り込むことはできません。そのため、クロダイが餌を独占できるのです。クロダイの回遊ルートは正確にはわかっていませんが、少なくとも広島湾の場合は湾の中でライフサイクルが成立しています。このようなことから、放流が成功して、クロダイの数が増えたと考えられます。広島湾のクロダイで、放流魚の占める割合は15%ほどです。これは、放流魚としては高い数字です。
クロダイに限らず魚の生態を知ることは簡単ではありません。しかし、増えることを期待してとりあえず放流しようというのでは、放流効果がどれくらいあるかも予測できません。そこで、できるだけ魚の生態を研究して放流を行うのがよいのです。その意味で急激に増えたクロダイは、最適な研究対象です。また、牡蠣を食べてしまうことや、増えすぎて値段が下がってしまい、漁業が成り立たなくなるなどの点から、クロダイは将来の放流の在り方を教えてくれる貴重な魚と言うことができます。
九州大学 農学部 生物資源環境学科 動物生産科学コース 教授 中尾 実樹 先生
魚と人間では姿形は違いますが、動物全体を見渡してみると、案外近い関係にあります。動物全体のわずか3%ほどの脊椎動物のグループに、魚も人間も入っているのです。背骨があるだけでなく、顎(あご)を持つという点でも共通しています。また人間のゲノム(全遺伝情報)には、2万から3万の遺伝子が入っていますが、魚もほぼ同じくらいの数の遺伝子を持っています。
動物には、病原体など外敵を攻撃し、身を守る「免疫」の仕組みが備わっています。魚も人も、免疫にかかわるよく似た遺伝子を持つことがわかりました。免疫には、生まれつき備わる「自然免疫」と、病原体を学習することで後天的に身につける「獲得免疫」があります。獲得免疫とは、ひとたび病原体を学習・記憶すると、「抗体」を作ることができるようになり、以降は病原体に抗体を結合させて効率的に撃退できるようになるというものです。自然免疫はすべての動物が持っていますが、獲得免疫も併せ持つのは、魚類や両生類、鳥類、哺乳類など脊椎動物の限られたグループだけです。
獲得免疫に関する遺伝子に異常があると、抗体を作ることはできません。人間の場合、獲得免疫に大きく依存しているため、その遺伝子がないと感染症にかかりやすくなり、生きていくことは困難です。ところが驚くべきことに、魚は獲得免疫に関する遺伝子を失っても、自然界で生きることができます。魚には自然免疫だけで人間よりもうまく病原体を撃退する仕組みがあるのではないかと考えられています。
近年、同じように見えても、魚と人間の遺伝子では異なる働きを持つことが明らかになってきました。人間は進化の過程で、このような自然免疫の力を失ってしまったのでしょうか? 魚の免疫の仕組みを解明すれば、養殖での感染症を防げるばかりか、人間の病気の治療にも光が差すでしょう。免疫を知る上で、魚から学ぶことは多くあるのです。
海洋資源・エネルギー等から海・海洋のことをより深く学び 将来はそのことを活かした職業に就きたい。
水産学部ではない海洋生物系の学部を探したときに国内トップの研究水準を誇る大学が海洋大だったから。
専門的な海洋生物の知識が身につけられると思ったから。
水産経済学について学習できるから
希望する研究テーマに近いものがあったことと豊富なフィールドワークがあったこと
様々な教育プログラムがある。
水産系の科があるから
農学部で研究が豊富な国立大学に行きたいと思っていたので
東海大学 海洋学部
養殖研究をしている秋山先生に教えてもらいたかった
東海大では深海生物の研究ができ、静岡という駿河湾がある県で学べるところに惹かれたからです。