53歯学

歯学は、「歯」だけには限定されず、口腔組織や顎(あご)、その周辺の疾患の治療と機能回復を担う口腔部分全体に関する学問で、6年間のカリキュラムで学びます。口腔部分は、食べること・話すことに関わる健康や生活にとって重要な部分です。むし歯や歯周病の予防や治療だけにとどまらず、研究対象やテーマは社会のニーズとともに広がりを見せています。
歯並びを整える歯科矯正分野、顎や口腔の炎症・外傷などの治療を研究する口腔外科分野、放射線による歯の診断や治療を研究する歯科放射線学分野、食生活指導などを含めた予防的な歯科学、高齢者・小児歯科学、歯の美容に関する審美歯科分野などがあります。また、口腔の健康が身体全体の健康に関わることもわかってきました。さらに、遺伝子組み換え実験や再生医療、脳外科分野へのアプローチも進められています。
学部卒業時に歯科医師国家試験受験資格が与えられ、合格者のほとんどが歯科医になります。合格後は1年間の研修期間を経たあと、臨床医として勤務するのが一般的です。大学院へ進学し、研究者や大学教授をめざす人もいます。
東北大学 歯学部 歯学科 教授 福本 敏 先生
人の体で一番硬いのは、歯の表面のエナメル質という組織で、ダイヤモンドを10とするモース硬度の7の少し下、つまり水晶よりも硬いのです。
動物が草を食べると砂や小石も口に入ってきます。歯がすり減って、ものが食べられなくなることは、そのまま自然界で暮らす生き物の寿命を意味します。エナメル質が厚く丈夫な生き物だけが種を繁栄させてきたという説があり、1億6000万年前のネズミの祖先が丈夫な歯をもっていたことが、その説を裏付ける証拠として話題になりました。
人の歯はエナメル質と象牙(ぞうげ)質からできています。この二つがどうやって作られるかが解明されれば、将来、歯の再生を実現する第一歩となります。ところが、エナメル質を作るエナメル芽細胞は、歯が生えた後にはなくなってしまうため、これまで研究することが困難でした。しかしiPS細胞を歯原性上皮細胞と共培養することで、世界で初めてエナメル芽細胞を作ることに成功しました。エナメル芽細胞の研究が進めば、歯だけでなく同じメカニズムで発生する毛髪や、手、腎臓や肺などの遺伝的な病気についても解明が進むはずです。
乳歯は、丈夫な永久歯が出来上がるまでの、いわばつなぎの歯で、役割を終えると抜けていきます。その乳歯の歯髄が、iPS細胞を作るのに、たいへん都合がよいことがわかってきました。皮膚などと違って紫外線にさらされていないのでDNAの損傷が少ないこと、さらに年齢による劣化も少なく、抜けてしまった歯を利用するので、わざわざ採血したり組織を採ったりする必要もありません。こうして乳歯から作られたiPS細胞は、実際に研究に活用されています。生物の進化の歴史から最新のiPS細胞まで、歯の研究はたいへん興味深く奥が深い分野なのです。
東京医科歯科大学 歯学部 歯学科 准教授 大槻 昌幸 先生
「できるだけ歯を抜かない、削らない」治療は、「MI(Minimal Intervention=最小限の侵襲)」と呼ばれ、現在のむし歯治療の大切な考え方となっています。むし歯の治療では、むし歯だけを丁寧に取り除けば痛みは少なく、むしろ健康な歯を削ったときの方が実は痛みが強いのです。歯の治療は「怖い」「痛い」というイメージを持ちやすいですが、麻酔なしでも、痛くなくむし歯の治療ができるようになってきました。
「MI」とともに重要なキーワードは「審美」です。「審美歯科」ということばを聞いたことがある人も多いと思います。以前は、むし歯を取ったあとに歯型をとって、金や銀の詰めものや被せものをする治療が多く行われてきました。できることなら、むし歯の治療のあとは白い歯にしたいという患者さんも増えています。これを実現したのが、コンポジットレジンを用いた治療です。むし歯を削り取ったあとの穴に、接着剤を塗り、白いプラスチック(コンポジットレジンといいます)を詰めて、治療の跡がわからないようなきれいな白い歯に戻すことができるようになりました。
毎日の歯磨きや歯科医院での歯のクリーニングで、歯についた汚れを取って、きれいで白い歯を保つことができます。ところが歯磨きや歯科医院でのクリーニングでは取れないような歯についた色もあります。歯のホワイトニング治療は、そのような歯についた色を、専用の薬品と器具を使って白くする治療です。また、自分の歯をもっと白くしたいと希望して、歯のホワイトニング治療を受ける人もとても増えてきています。歯のホワイトニング治療は、人びとに笑顔をもたらす、歯を削らずに行える審美歯科治療で、患者さんの満足度も非常に高いです。
鶴見大学 歯学部 歯学科 教授 山越 康雄 先生
歯周病が進行すると歯は脱落してしまいます。一度失った歯は再生してくれません。今は差し歯や入れ歯などの人工物を使って治療をしていますが、もし自分の抜けてしまった歯が再生できたら、それに勝る治療はありません。実はそんな薬が、今使われているものの中にあるかもしれないのです。「ドラッグリポジショニング」と言って、既に使われている治療薬から、別の効果を見つけ出せることがあります。例えば、高血圧の治療薬であるミノキシジルという薬は、発毛作用が確認され、現在は育毛剤として再開発されています。
今ある薬の中に、歯の再生に効く薬も見つかっています。イギリスのある研究室が、アルツハイマー病の薬を患者の歯に入れたら、歯が少しだけ再生することを発見しました。アルツハイマーの薬が、歯の母体である象牙質の再生に効果があったのです。
アルツハイマーの薬は神経を興奮させる物質に関与することから、逆に神経を抑制する物質に関与する薬にも歯の再生の効果があるのではないか、という仮説が立てられました。神経を抑制する薬の代表といえば麻酔薬です。歯の内部には歯髄(しずい)という軟組織があり、歯髄にミダゾラムという麻酔薬を入れると象牙質を形成するような働きが見られました。これにより、歯だけではなく、骨も再生できる可能性が考えられます。
今使われている薬が別の治療にも使えると、さまざまなメリットがあります。新薬の開発にはコストがかかりますし、副作用の有無などの安全性の検証や販売までの認証に長い時間がかかるなど、簡単にできるものではありません。しかし既に販売されている薬は、安く手軽に手に入り、安全性も実証済みです。そのため、歯科だけでなく医療全般でドラッグリポジショニングの研究が進んでいます。歯の再生に関しては、やっと希望が見えてきたという段階ですが、次の世代がこの研究を受け継いで進めていけば、歯の再生治療は身近なものになっていくでしょう。
大阪大学 歯学部 口腔治療学教室 教授 村上 伸也 先生
歯周病とは、口の中の細菌によって歯ぐきが炎症を起こす病気です。進行すると歯ぐきや歯を支える骨が破壊されてしまいます。細菌を取り除くことで病気の進行は止まりますが、失われた歯ぐきや骨を自分の力で取り戻すことはできません。そのため、最悪の場合は歯を失うことになります。しかし、それでも歯ぐきや骨といった歯周組織を作る元となる細胞である幹細胞は残っています。そこで、なんらかの方法で幹細胞の働きを活性化することができれば、元の状態を取り戻すことができます。
歯と骨の間にはコラーゲンの線維層があります。これを歯根膜といいますが、幹細胞はここに眠っています。例えば、歯の並びをきれいにする矯正治療というものがあります。この治療では歯を倒したり、引っ張ったりしますが、この過程で倒された側の歯根膜は骨を吸収し、引っ張られた側は骨を作ります。ここで働いているのが、骨の形成や吸収に関わる細胞です。人為的にこのような細胞をもっと活性化できれば、歯周組織が再生されるはずです。実は、このような薬はすでに開発されており、治療に使われています。この薬(成長因子)は、幹細胞を活性化して幹細胞を増やし、新しい血管を作り組織の再生を促す機能があります。ですからこの薬を患部に投与すれば、元の歯周組織を再生させることができるわけです。
再生治療というとiPS細胞による治療が知られていますが、薬で組織を再生させるのは世界初の研究成果です。研究はさらに進んでいて、幹細胞が乏しい人のために、骨髄や脂肪組織の中にある幹細胞を抽出して患部に移植する治療技術が研究されています。
歯の再生治療の発達によって、入れ歯やインプラントなどの治療を行わなくても、自分の歯で生活できるようになるでしょう。高齢化が進む中で、人のQOL(生活の質)を高めることは重要なテーマです。その意味で歯学研究は重要な役割を果たしています。
学習環境も良いし、大学病院もありますし、実習環境に関する心配はありません。
医学部と連携して歯周病の研究ができるから。
医学の知識だけでなく教養もしっかりと身につけることができる。
東京医科歯科大学には医学部との密接な連携を活かした医歯学融合の教育プログラムがある
カリキュラムや設備が充実していたから。
学習環境、技術取得の設備が整っている
国立総合大学で唯一歯学部附属病院が設置されており、大学入学後、卒業後も先端技術や最新の研究に触れながら、学んでいけると考えたから
国公立歯学部トップの実績がある。教育カリキュラムもしっかりしており、充実した学習を受けることができる。
岩手医科大学 歯学部
施設が充実している
医療系総合大学であり、医師になるためのスキルを養うシステムが整っているとともにチーム医療に積極的に携われる人材を育てることができること