人工赤血球で血液不足を解決する日がやってくる
心配される将来の血液不足
日本は少子高齢化などにより、2027年には101万人分の輸血用血液が不足すると言われています。また献血により集められた血液は、冷蔵保存しても赤血球の変質や細菌の繁殖の可能性があるため、長く蓄えてはおけません。輸血を介したウイルス感染の可能性も完全には克服されていません。血液不足や災害など有事に備えて、安全な血液の確保が求められているのです。そこで、血液を人工的に作る研究が注目されています。
ヘモグロビンから赤血球を再生
アメリカ、ヨーロッパなど世界で人工血液の研究は行われていますが、日本はその研究をリードする国のひとつです。「人工赤血球」の研究では、ラットの全血液の90%を人工赤血球に置き換えることにも成功しています。
赤血球はヘモグロビンを濃度高く封入した細胞であり、肺で酸素を取り込んで全身の隅々にまで運搬する働きを担っています。赤血球の細胞膜表面は、糖の化合物でできた「糖鎖」で覆われており、糖鎖には血液型の違いを生み出す物質も含まれています。
人工赤血球を作る方法として確立されたのが、血液からヘモグロビンのみを精製し、細胞膜の代わりに脂質の合成化合物で作った化学的に安定なカプセルでヘモグロビンを覆うというやり方です。ヘモグロビンは保存期限が切れた献血血液から精製します。精製の段階で加熱と濾過により細菌やウイルスは除外されます。さらに、糖鎖のある細胞膜も完全に排除するので、血液型を問わずにいつでもどこでも投与できます。つまり、廃棄される血液を有効利用し、感染の心配がなく、長期保存ができ、誰にでも投与できる赤血球に「再生」することができるのです。
脳梗塞や心筋梗塞の治療にも活用
人工赤血球は輸血の代わりとしての利用だけではなく、迅速な酸素供給が鍵となる脳梗塞や心筋梗塞の初期段階の治療、移植用の臓器の保存などへの活用も期待されています。まだいくつかの壁はありますが、将来は医療機関に人工赤血球製剤を常備する日がやってくるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
奈良県立医科大学 医学部 化学教室 教授 酒井 宏水 先生
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