複数の学問を融合させ、境界領域を担う技術とは
工学と医学の連携
医学分野は、工学分野から直接手の出しにくい領域にあると思われがちですが、医師が使っている装置は工学領域です。つまり、医師と一緒に装置を開発することが、工学と医学の連携です。その一例として、医師は、『血液の粘度について「ドロドロ」「サラサラ」といった表現ではなく、もっと科学的な物性値としての測定をしたい』という要望を持っていたのです。ところが通常、工学研究では実験に使用する血液を用意することができません。そこで、医大や病院から血液の提供を受けて共同開発となるのです。
血液の特徴
血液の流れをテレビで見た方も多いと思いますが、実はあの細い管の中に血液を流す装置では、血液の粘度を測定することはできません。また、ドロドロと言われていても健康な人も多いなど、実際の診断には役に立たないものでした。血液は流体の中でも極めて特徴のある液体です。中でも粘度を計測するのに一番の問題点は「空気に触れていると固まってしまう」ことです。そこで血液が固まるまでの2~3分以内に迅速に粘度を計測しなければならないのです。
粘度を測定する
流体の粘度を測る方法は主に3種類あり、1番目は「混ぜてみる(流体を動かしてみる)」。しかし、これを血液で行うと固まってしまって測定できません。次に「流体を流す」。細い管に通して時間がかかるほど粘度が高いと測定するという先に紹介した方法ですが血液の特性上、この方法では正確な測定が困難です。最後は、「流体の中に物を落としてみる」方法で、細い針状のセンサーを血液に複数落とし、通過時間を調べるのです。
3番目の方法を使った小型の落針式粘度計で測定したところ、血液はゆっくり動かそうとすると、赤血球が団子状態になって粘度が高くなり、速く動かす力が加わるとサラサラと流れる性質があるということが正確にわかってきました。男女での血液の粘度の差や入浴前後での違いも明らかになりました。血液の粘度が正確に測定できるようになったことで、今後、さまざまな疾病への対応策が生まれてくるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。