援助をすれば思わぬ結果に!? 国際保健に必要な人類生態学の視点
人間が生態系に与える影響を研究する
人間も地球上における生態系の一員であり、環境に適応進化して生きてきました。生物と物理化学的環境の相互作用や、複数の生物間の相互作用を研究するのがいわゆる生態学ですが、現代の生態系は人間の影響を大きく受けています。つまり、人間が環境を改変したことにより、生態系に思いもかけない変化が起こっているのです。人間が生態系に与えている影響や、人間が生態系の中でどういう振る舞いをするのかを研究ターゲットにするのが「人類生態学」です。
国際協力にも大切な人類生態学の視点
人間は科学技術によって自分たちが暮らしやすいように環境を変えてきました。当然まわりまわって環境から何らかの作用が返ってきますが、それらが複合して環境問題や公害問題となったと考えられます。地球の人類全体が健やかに暮らすために必要な開発援助や国際保健の分野でも、よかれと考えてしたことが社会全体に思わぬ影響を及ぼすことがあるため、人類生態学の視点が重要です。例えば、医療施設が不足している地域に援助国が病院を建てると病気治療はできますが、現地のスタッフだけで運営管理が行き届かなくなってしまうと、院内感染を起こしたり、今までなかったタイプの病気が流行ったりすることがあります。
病気を減らすと何が起こるのか
開発援助によって社会システム全体がどう変わるか、何が本当に効果的かをよく考える必要があります。今から20~30年前は高価な顕微鏡や医療検査機器を海外に援助する技術供与がよく行われました。当初は技術指導者も現地に入って検査と治療を行うのでしばらく経つと感染者が減るのですが、同時に現地の人たちがその病気に対して従来持っていた免疫も弱くなってしまいます。そんな状態で何年か後にその疫病が再度流行ると、今度は大流行になってしまいます。このように、ものを含めた技術供与をするときには、それが現地の生態系全体に与える変化をよく考えておくことが大切なのです。
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 医学部 保健学科 教授 中澤 港 先生
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人類生態学先生への質問
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