自然界の見えないことを可視化・予測するシミュレーション技術
観測できない現象を可視化する
現実世界では、実際に観察や計測が難しい現象がたくさんあります。こうした現象の可視化や予測に活躍するのがコンピュータシミュレーションです。例えば、顕微鏡を使えば血液中にある赤血球を見ることができますが、赤血球が受けている力の分布や損傷、周りの流れの特徴といった細胞の力学は見ることができません。そのため細胞をコンピュータで再構築し、基礎となる物理をシミュレーションで検証する研究が行われています。
赤血球が壊れる仕組みを調べる
赤血球は柔らかい細胞で、正常な体内の血流では損傷が起きることはほとんどありません。しかし、人工心臓や人工透析の機械に血液を通す場合、体の中と特性が違う流れを受ければ、赤血球が損傷・破裂し、貧血の原因になることがあります。このような赤血球の損傷・破裂を防止するために、赤血球の損傷をシミュレーションで再現する研究が行われています。生物学的な力学実験の結果をもとに赤血球の数値モデルを作り、引張試験や周りに流れの印加により発生する力分布を赤血球膜の全体に計算します。また、膜の各構成物に関する前提条件を変化することで、詳細なメカニズムを解明しようとしています。
リンゴ果樹園の様子を予測する
スマート農業の技術の一部で、リンゴ果樹園をシミュレーションする研究も行われています。ドローンを使って、実際のリンゴ果樹園の画像と奥行情報のデータを収集し、深層学習を使ってコンピュータ上で3次元の仮想リンゴ果樹園を作ります。仮想リンゴ果樹園ができると、天気や果樹の状態を再現し、自由に変えることもできるようになります。その中で栽培の不調をシミュレーションで対策を比較し、検証していくのです。
これらのシミュレーション技術は、医療や農業だけでなく、気候変動などの大規模な問題解決にも貢献するものと期待されています。
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