屋内除菌や外壁美化、さらにCO₂も有効活用できる「光触媒」の力
実は、環境に優しくはなかった太陽光発電
環境に優しいエネルギー生産方式として、太陽光発電が注目されています。しかし、太陽電池パネルを製造する際、大量のエネルギーを消費してCO₂を排出しますから、トータルで考えると太陽光発電は、決して環境に優しくはありません。エネルギーを生産する工程でも、その機器を製造する工程でも、CO₂を大量排出しない方法でなければ、本当の意味で「環境に優しい」とは言えないのです。そこで現在、国家的プロジェクトとして研究が進められているのが、「光触媒」を利用したCO₂還元技術です。
「光触媒」の弱点克服が、用途を広げるカギに
現在、「酸化チタン」による光触媒が実用化されています。この物質は、強力な酸化還元作用と、超親水作用を持っているため、雨水だけで汚れが落ちる外壁用の塗料や、ブラックライトを当てることで殺菌が可能な手術室用コーティング剤などの用途で活用されています。
ただし、酸化チタンを機能させるには、紫外線を含む太陽光や、ブラックライトのような人工紫外線を照射しなければなりません。さらに、「CO₂還元」を実現するには、酸化作用よりも還元作用の方が強い酸化チタンが必要です。
厄介もののCO₂を光の力でエネルギーに変える
屋内の光でも触媒機能を発揮する「室内光型光触媒」の研究が進められ、ナノテクノロジーを駆使した新しい素材の製造法が開発されました。
すでに内装建材用として製品化されており、室内光だけで殺菌・抗カビできる塗料として、一部の駅や大学のトイレ・病院・老人保健施設に施工されています。今後は国内だけではなく海外も含めより多くの老人保健施設や病院などでも活用されるようになるでしょう。
「光触媒によるCO₂還元」も、粒子形状や結晶構造の割合を変化させることで、還元作用の強い触媒の製造法が確立されつつあります。クリアしなければならない課題は多いものの、「厄介もの」であるCO₂からメタノールやガソリンを作り出せる、画期的なエネルギー生産方式が生まれようとしているのです。
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九州工業大学 工学部 応用化学科 教授 横野 照尚 先生
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