ナノ材料+人工光合成で、CO₂排出ゼロの水素をつくる
革命的なナノ材料加工
炭素でできた太さ1ナノメートル程度の「管」カーボンナノチューブは、柔軟性や強度があり、医療やスポーツ用品、半導体など多岐に渡って注目される素材です。その幾何学構造によって色が変わり、いろいろな波長の光を吸収する特性をもっています。近年、これまでにない分子レベルのナノサイズの加工技術を使うことで、カーボンナノチューブの表面に、目的にあわせたナノ構造を構築することに成功しています。これにより、カーボンナノチューブにさまざまな機能を持たせることが可能となりました。
植物の原理がヒントに
カーボンナノチューブの表面にナノ構造をつくる方法は、植物などの生命が細胞組織を自ら組み立てることと同じ原理です。有機化学で設計・合成した分子を表面につけると、自ら組織化していきます。
表面に光機能があるナノ素材をつけると、カーボンナノチューブが人工光合成を行う材料に生まれ変わります。人工光合成とは、植物が太陽光を使って炭水化物と酸素をつくり出す反応を、人工的に行うことを指します。カーボンナノチューブ光触媒を使うと、水を分解して水素と酸素をつくり出すことが可能です。このように、植物のシステムを参考にしたナノ材料加工技術が確立しつつあります。
カーボンニュートラルに向けて
一般的な光触媒が活用できるのは、太陽光のわずか3~4%の紫外光のみですが、カーボンナノチューブ光触媒は、可視光から近赤外光まで幅広く太陽光を活用できます。そのため、曇りの日でも利用できることが期待されています。現在は水素をつくる際にCO₂を排出することや、コスト高といった課題がありますが、この技術が確立すれば、CO₂排出ゼロで安く大量に水素がつくれるようになるでしょう。
さらに、ナノ素材を使って、工場の排ガスや海中のCO₂を吸収して化学品原料をつくるといった新しい技術開発もスタートしています。これらが実現すれば脱炭素社会に大いに貢献できます。材料工学と有機化学、光化学との融合で可能性が広がっています。
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先生情報 / 大学情報
富山大学 都市デザイン学部 材料デザイン工学科 教授 髙口 豊 先生
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