二次元材料、ナノシートの大いなる可能性
原子1個の厚みしかないナノシート
2010年、グラファイト(六角形に並び網目状の面構造をした炭素原子が、層状に集まった結晶)から炭素1個分の厚みしかないシート状の「グラフェン」という物質を発見した科学者に、ノーベル物理学賞が贈られました。厚みが0.1mm程度のコピー用紙の約10万分の1のレベルの話です。二次元のナノシートにすることで、熱や電気の通しやすさなど、三次元のときには見られなかった新たな性質が確認されています。これらを生かすことで材料開発の可能性が広がることが期待されています。
オーダーメイド材料も夢ではない
最初に脚光を浴びたのは炭素原子から成るグラフェンでしたが、今やさまざまな物質のナノシートが作成できるようになりつつあります。例えば「物質Aは通すが物質Bは通さない」など、用途・目的に合わせて、それに適した膜をデザイン、実用化することが可能になっています。人口増加や温暖化にともなう水不足も人類が抱える大きな課題ですが、海水の淡水化に使える膜もこうした方法で合成できる可能性もあります。
環境問題にも貢献
CO₂排出抑制の観点から有望なエネルギーとして水素が注目されています。半導体から成るナノシートを水中に沈めて光を当てると、光触媒反応により水素が得られます。「水を水素と酸素に分解する」と聞いて、水の電気分解を思い浮かべるかもしれませんが、その名の通りそれなりの電気エネルギーが必要です。そのためコスト面から、現在産業で用いられる水素の多くは、化石燃料から取り出しています。ナノシートによる光触媒がそれを代替できれば、大きな社会的意義があります。今はそのためのエネルギーの多くを紫外光から得ていますが、可視光で実現できればより実用に近づきます。
地球が太陽から得ているエネルギーのたった0.01%を有効に活用できれば、人類が必要な全エネルギーを賄うことができるのです。ナノシートはそうした動きの一翼を担える存在であり、可能性は無限大です。
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熊本大学 工学部 材料・応用化学科 教授 伊田 進太郎 先生
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