「思いがけない展開」が、有機化学のものづくりの楽しさ
抗酸化剤の役割
抗酸化作用をうたったサプリメントが数多く販売されています。人間の体を酸化させるのは活性酸素です。これは、食べ物をATPと呼ばれるエネルギーの素となる物質に変換するときに生まれます。いわば、生きているかぎり必ず生まれてくる物質です。過剰になると有害なので酵素などによって除去しますが、老化などによって除去する機能が衰えると体内に残った活性酸素で酸化が進み、がんや糖尿病、動脈硬化など病気の原因になります。これを防ぐのが、抗酸化剤と言われるものです。
効果を検証する診断薬
抗酸化剤の効果は、細胞内の活性酸素の量や移動を見るとわかります。それを色(蛍光色)で視覚的に示す診断薬があります。細胞は、遺伝情報がある核や細胞を動かすエンジンのようなミトコンドリア、細胞そのものを作るゴルジ装置など複数のパーツで構成されています。その中でもミトコンドリアに結合し、活性酸素が過剰に発生するとよく光る分子が合成されました。この分子を入れた細胞に検査したい抗酸化剤を入れて活性酸素が発生する刺激を与えると光の強弱と分布を観察することによって抗酸化剤の効果を診断することができます。
有機化学でのものづくりの楽しさとは
この診断薬開発のもとにあるのは、有機化学の知見です。細胞の各パーツに作用するより機能的に優れた物質を合成するにはどうすればよいかを考え、実際に作って検証してみるという、有機合成化学にはものづくりの楽しさがあります。単にものを完成することが目的ではなく、作りあげたものの性質や機能を調べることが大切です。その過程で新たな機能や性質を発見し、そこから別の成果を生み出せることもあります。思いがけない成果をもとに仮説を立て、さらに検証してみると、そこから、新薬など新しい製品が開発できるかもしれません。この「思いがけない展開」こそが、有機化学ならではの楽しさなのです。
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先生情報 / 大学情報
福岡大学 理学部 化学科 准教授 塩路 幸生 先生
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