知力と技術を武器に、フラスコの中で有用な分子を創製する
天然有機化合物を化学合成する
「有機合成化学」は、炭素と炭素の結合を切ったりつないだりして、標的とする分子を実験室で構築します。例えば、動植物や菌などが生産する天然由来の有機化合物の中には、医薬・農薬の候補として期待されるものが数多くあります。しかしながら、それらは天然からの供給が極めて少ないため、医薬品としての実用化はもとより、それらの化合物の詳しい作用を調べることもおぼつかないのが現状です。そこで有機合成化学の分野では、安くて大量に入手可能なアミノ酸や糖のような有機物を、種々の化学反応を駆使して、希少な天然有機化合物へとつくり替える方法を開発します。すなわち、生物が生産したものと同じ機能を持つ物質を試験管とフラスコの中だけで人工的につくり上げるのです。いわば、この分野の研究者は、分子の設計と構築を行う分子の建築家と言えます。
医薬化合物を創製する、その働きを解明する
天然有機化合物などの医薬候補分子がそのまま医薬品として用いられることもありますが、有機合成化学者は、医薬候補分子をさらに有効な分子へと変換することができます。すなわち、分子の化学構造から、その物理的性質や薬としての効能などを読み取り、より強力でより毒性(副作用)の少ない分子(薬)を設計することができます。設計した分子は、実際に合成して薬としての効能が検証されます。この作業を繰り返すことによって、より良い薬がつくられていきます。さらに、薬として働く分子が体内でどのように働いているかを知るために、分子を光らせて体内での動態を観察できるようにもします。
難題にチャレンジして、人類の役に立つ
求めている化合物をつくる過程では、研究者が自ら試薬や新反応を開発する必要にも迫られます。こうした難題をクリアしながら、医薬、農薬、肥料、色素、電子材料などに期待される貴重で有用な有機化合物を創製し、世の中に貢献するのが有機合成化学という分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 薬学部 教授 難波 康祐 先生
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有機合成化学、有機化学先生への質問
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