博多湾の厄介者を有効活用! 海藻のアオサから紙をつくる
和白干潟に大量発生するアオサ
博多湾北東部の和白干潟(わじろひがた)は、冬になるとたくさんの渡り鳥が飛来する自然豊かな土地です。しかし毎年夏には海藻の「アオサ」が大量発生し、海岸に打ち上げられ腐って異臭を放ち、付近の住民の苦情のもとになっていました。食用にも向かないので、埋め立てや焼却するなどして廃棄するしかないのです。
そんなアオサの処分に頭を悩ませた福岡市からの発案で、アオサの有効活用を考えるプロジェクトが立ち上がりました。そうして生まれたアイデアの一つが、アオサを使った紙づくりです。
アオサを紙に加工する
アオサには海藻独特のヌルヌル成分があります。これは「細胞間粘物質」と呼ばれるもので、繊維の主成分である「セルロース」と似た分子構造をしています。しかもアオサは植物ですからセルロース自体も含んでいます。そこから紙がつくれるのではないかと考えたのです。
アオサを細かく砕き、匂いと色を取り除くために化学薬品を入れ、何度も撹拌(かくはん)と濾過(ろか)を繰り返し、繊維を取り出すことに成功しました。取り出した繊維を紙すきの要領ですくい出し、急速に乾かすと、少し黄味がかった和紙のような手触りの紙ができあがりました。
生活用品を地産池消でまかなう
さらにアオサからできた紙を加工することで、園芸用のポット(種苗育成用の小鉢)やトイレットペーパーに混ぜるなどのアイデアも生まれました。天然素材なので微生物によって分解されるため、土や水に廃棄しても安全で環境にやさしい製品です。紙の原料であるパルプの多くは海外からの輸入に頼っているので、地元で採れるアオサを活用できれば、地産池消にもつながります。
現在は、アオサでできた紙に、微生物が分解できるプラスチックを混ぜ、強度を上げようという試みもあります。厄介者でしかなかった博多湾のアオサも、視点を変えることで、生活の中で有効に利用できる可能性を秘めています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
福岡女子大学 国際文理学部 環境科学科 教授 吉村 利夫 先生
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