ウイルスをブロックする超マスク! その鍵を握る糖鎖とは?
ウイルスの侵入を防ぐ「糖鎖のマスク」とは?
糖というと、食べる砂糖などを思い浮かべるかもしれません。糖は体内にもあり、細胞の表面には糖がつながった「糖鎖」が発現されています。その理由は、細胞同士が糖鎖を介してコミュニケーションをとるためです。我々の体を正常に保つためには糖鎖はかけがえのないものです。この糖鎖を悪用して、体内に入ってくるウイルスがあります。インフルエンザウイルスは、人間の呼吸器の細胞に発現されているシアロ糖鎖を認識して侵入します。そこで、シアロ糖鎖とそっくりの糖鎖を合成してマスクの繊維に塗布すれば、ウイルスが勘違いしてマスクにとどまるので、体内への侵入を防ぐことができると考えられています。
複雑な糖鎖合成の簡便化をめざして!
糖鎖は、例えばガンの治療にも利用できます。ガン細胞にのみに発現されている種類の糖鎖だけを認識する医薬品を開発すれば、正常な細胞を傷つけない治療が可能になります。また腸内環境を良くする糖鎖を開発して食品に添加すれば、健康補助食品にもなります。
このようにいろいろな可能性を秘めた糖鎖ですが、応用利用するためには大量の糖鎖が必要になります。しかし、糖鎖の合成には有機溶剤など毒性の高い試薬が必要で、化学合成の工程も難しく、日数がかかり、高価なものでした。そこで考案されたのが、新しい酵素を使う方法です。酵素とは、生体で起こる化学反応を触媒する分子です。この酵素を使った合成では、混ぜるだけの工程で、誰もが同じように簡単に糖鎖を合成することを可能にしました。糖鎖を環境に安全で、簡便に合成することに成功したのです。
医療や健康に貢献する糖鎖
糖や糖鎖は人間の体に必要なものであり、その機能を応用利用すると社会にも役立つものです。DNAの骨格も糖が関わっていますし、脳の栄養になるのも糖のグルコースです。またA・B・Oの血液型も、糖鎖の違いで決まります。この様にとても身近で、夢のある分子「糖鎖」の研究は、人間の健康と幸福につながるものです。
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先生情報 / 大学情報
和歌山大学 教育学部 科学教育 教授 山口 真範 先生
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