ピンポイントで患部に薬を運ぶ「ドラッグデリバリーシステム」の開発
高額な薬剤費を減らすには
数年前に筋肉が侵される病気として知られる筋ジストロフィーの治療薬が開発されました。患者が待ち望んでいた新薬ですが、薬剤費は年間約4000万円におよびます。しかも、1回の注射液のうち99%は尿中に排泄されてしまいます。もし、この薬剤が筋肉に100%運べるなら、年間の治療費は40万円で済み、より多くの患者が治療を受けられるはずです。そこで、薬を積んだ「運び屋」が体内に入り、患部に到着した時に体外からのリモートコントロールで薬を送り届けるようなシステム(ドラッグデリバリーシステム)が研究されています。
泡の粒子が薬を届ける
運び屋となるのはナノサイズの泡の粒子です。泡の粒子に治療薬を入れて血管に注射すると、血液にのって体の中に泡が運ばれます。患部に着いた時に、体外から超音波を当てると泡は破裂し、破裂時のミクロのジェット流により薬が患部に浸透する仕組みです。なお、人間の体は水分含量が多いため音波を通しますが、泡の部分は音波を跳ね返します。この仕組みを使うと、超音波を当てることで、泡の粒子がどの辺りに到達しているのかを体外から確かめることができます。また、対象となる病気が「がん」の場合は、泡の粒子にがんに結合する抗体のようなアンテナ分子をつけることで、泡をがん細胞の周りだけに集め、薬を効率よく送り込むことが可能になります。
ドラッグデリバリーシステムの重要性
ピンポイントに薬を送り込むことができると、薬が別の場所に影響を与えることで起こる副作用を防ぐ効果も期待できます。また、もともと超音波は病気などの診断に使われるものなので、診断と治療の一体化を図ることも可能です。診療時間が短くなり、患者の負担軽減だけでなく、医療費削減にもなるでしょう。現在はモデル動物を使った研究の段階ですが、将来は、様々な病気が手術なしで診断治療だけで治るようになるかもしれません。薬そのものの開発だけでなく、求められる場所に薬を送り込むドラッグデリバリーシステムの開発も大変重要な研究なのです。
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東京薬科大学 薬学部 医療衛生薬学科 教授 根岸 洋一 先生
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