物理的側面を考えると工学に応用できる「折り紙」

物理的側面を考えると工学に応用できる「折り紙」

工学に使われる折り紙

一般的に、折り紙は「1枚の正方形を切らずに折るだけで作る造形」だと言えます。伝統的なものに加え、1950年代に創作性が国際的にも認められ、アートとして発展してきました。その折り紙は多方面で工学的に使われています。

折り紙を物理的に見る

紙は薄く、手で容易に折りたためるので「柔らかい」と思いがちですが、引っ張ってもほとんど伸びないことでわかるとおり、素材としては硬いものです。ここに紙の物理的な特徴があります。
さて、紙を筒状にして両端から力を加えると、筒は折り目を作りながらシワシワにつぶれます。これを「座屈現象」と言います。この折り目をよく見ると、三角形があちこちに見えます。この三角形の配列をゆがみなく作ると、ダイヤモンドのような三角形のパターンができます。これを「吉村パターン」と言います。
この「吉村パターン」は、航空機のボディが衝突したときにどう壊れるかを研究しているときに発見されたものです。このパターンは潰した縦方向には弱いですが、潰した方向に直交する横方向の力に対しては非常に強いものです。

折り紙の応用例

このように、物理現象として折り紙をとらえていくと、折り紙も工学になります。折り紙の工学への応用は、「成形」と「展開構造物」の2つの方向が考えられます。
「成形」とはいろいろな立体形状を作る加工のことですが、折り紙だと一枚のシートを折るだけで材料自体を伸び縮みさせなくてよいので、金属板も使用可能です。折り線パターンを変えると立体形状も変わるので、一品生産の建築の部品などに適しています。
もうひとつの「展開構造物」は、たたんだ状態で運搬し、目的の場所で広げて使用するというものです。宇宙船のソーラーパネルに使われている「ミウラ折り」は有名ですが、小さいスケールでも折り紙が使われています。カテーテルで動脈の中にたたんだ状態で入れ、膨らませて動脈瘤を治療するのに使われる「ステント」へも折り紙が応用されています。
折り紙の工学への応用は、すでに非常に多岐にわたっているのです。

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東京大学 教養学部 学際科学科 准教授 舘 知宏 先生

東京大学 教養学部 学際科学科 准教授 舘 知宏 先生

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情報学、建築学、応用数理

メッセージ

私は折り紙を研究していますが、これまでにない新しい形を創作するという行為が、数理を用いてできるということに面白さを感じています。研究の基本姿勢は自ら調べ自ら考えることですが、研究者をめざす人でなくても、このことはすべてに通じることなので、この「自ら調べ自ら考える」ということを大事にしてください。もちろん、そのためには基礎の勉強が非常に大切です。勉強が何の役に立つのかという疑問を持つこともあるかもしれませんが、何に役に立てられるのかを自ら考えて、新しい価値を作りだすことをめざしてほしいです。

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東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。