講義No.06200 医学

わずかな方角の違いも聞き分ける「聴覚」の不思議

わずかな方角の違いも聞き分ける「聴覚」の不思議

音は「アラームシステム」

動物には、音を認識して危険を回避する能力が備わっています。動物にとって音は、アラームシステム(警報装置)の役割があるのです。とりわけ、どの場所から音が聞こえてくるのか、その位置情報を把握することは重要です。
音は、耳から入った音波が電気信号に変換され、その信号が枝分かれしたり統合したりしながら、複雑な神経ネットワークで処理されます。

精巧な聴覚の仕組み

ヒトの聴覚は、とても精巧です。音がどの位置から聞こえるのか、方角がたった1度違うだけでも聞き分けることができます。仮に、左右の耳が30センチ離れているとしましょう。音が秒速300メートルで伝わるとすれば、30センチ離れた左右の耳に音が届く時間差は、わずか1ミリ秒(1000分の1秒)しかありません。そして1度の方角の違いから発せられる音の場合は左右の耳に届く時間差は、わずか10マイクロ秒(10万分の1秒)です。ヒトは、そのほんのわずかな時間差を感知して、音の発せられる方角を特定しているのです。
しかし、左右の耳に届く音の時間差や強弱の差だけでは、水平方向(左右)の位置しか特定できません。垂直方向(上下)の位置を知るためには、音の高さ(周波数)の情報も必要なことがわかっています。

脳研究はますます面白い

脳には膨大な数の神経細胞があり、それらがつながることで神経ネットワークをつくっています。その構造は複雑で、新しい発見が次々と行われています。例えば、聴覚の神経細胞から伸びて電気信号の出力を担う軸索の起始部は、必要に応じて長さを変化させることが、近年の研究でわかってきました。この仕組みが細胞や分子レベルで解明されれば、脳の神経ネットワークにおける電気信号の異常が関わる病気の治療につながる可能性も考えられます。
脳は、生物学だけでなく、心理学やロボット工学など多方面で研究されています。柔軟な発想で研究を進めることで、今後も驚くような発展があるに違いありません。

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名古屋大学 医学部 医学科 教授 久場 博司 先生

名古屋大学 医学部 医学科 教授 久場 博司 先生

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細胞生理学

メッセージ

研究は仮説を立てて、それを実験で検証します。実験では、見事に仮説を証明できるかもしれませんし、全く予想外の結果になるかもしれません。しかし、いずれの場合も、新たな真理と「世界で初めて」向き合うことになります。このときの感動と興奮は、言葉ではなかなか言い表しがたいものです。私はこの感動と興奮を、ぜひ多くの人に味わってほしいと思っています。研究に興味のある方は、好奇心を大切にしながら、迷わず研究の世界に飛び込んでみてください。

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