パーキンソン病患者を支える作業療法

パーキンソン病患者を支える作業療法

神経伝達が損なわれる病気

人間の脳には大脳基底核と呼ばれる部分があります。ここで分泌される「ドーパミン」は神経伝達物質、つまり脳の命令を体に伝える重要な働きをしています。そのため、もし何らかの原因で大脳基底核がダメージを受けてドーパミンが分泌されなくなると、思うように体をコントロールできなくなります。これがパーキンソン病が起こる基本的なメカニズムです。パーキンソン病になると、手足のふるえや筋肉のこわばりが起こり、体を動かしにくくなったりします。まだ根本的な治療法が確立していない特定疾患です。

病気の進行を遅らせる3つの方法

パーキンソン病に対しては、病気の進行を遅らせる方法が3つあります。1つは外科手術によるもので、頭蓋内にある大脳基底核に電極を埋め込みます。脳に電気的な刺激を与えて、症状を緩和する方法です。次が薬物療法で、パーキンソン病に関しては多種多様な薬物が開発されています。そして、3番目は、2000年頃から注目され始めた、作業療法によるリハビリテーションです。リハビリテーションには薬のような即効性はありません。けれども、症状が軽いうちからリハビリテーションに取り組むことで、日常生活に必要な動きを長く維持できると考えられています。

ちょっとした工夫がリハビリにつながる

例えば、床に一定の間隔で目印となる線を引き、パーキンソン病の患者さんにその線をまたぐように歩いてもらいます。ただそれだけの工夫で、歩きにくかった人の足が、すっと動くようになるのです。こうした現象が起こることは、経験的にわかっていましたが、そのメカニズムは解明されていませんでした。ところが脳科学が発達して脳を画像診断できるようになった結果、脳の仕組みを解明することで、目印の線の持つ効果がわかるようになってきました。作業療法自体では病気を治すことはできませんが、作業療法には、病気が進行しても、体を動かすことができる期間を長くする効果があるのです。

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先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 教授 内藤 泰男 先生

大阪公立大学 医学部 リハビリテーション学科 教授 内藤 泰男 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

脳科学、神経生理学、作業療法学

メッセージ

人は刺激を受けると、それが脳内で処理され、神経が命令を伝達することで体が動きます。「脳機能障がい」とは、この一連のプロセスに何らかの障がいが起こり、本来の動きができなくなることです。作業療法は、このプロセスに注目し、特別な器具を使わずにリハビリテーションを行います。ですから作業療法を行うためには、脳の仕組みについて学ぶことが必要です。大阪府立大学では脳科学の知識をベースに、作業療法に関する専門知識とリハビリテーションの手法を学ぶことができます。ぜひ、私と一緒に学びましょう。

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2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。