副作用の少ない治療方法のヒントに! 免疫細胞の源を探る
免疫細胞はどこで生まれる?
免疫細胞は、ウイルスや細菌などから体を守るときに欠かせない細胞です。しかし免疫細胞が作られるメカニズムにはまだ謎が多く、研究が進められています。
ヒトの骨髄の中には、すべての免疫細胞を作り出す能力をもつ造血幹細胞が存在しています。この細胞から分化が進むと、特定の免疫細胞だけを多く生み出す細胞が出現することがわかりました。例えば2017年には、単球だけを作り出す源としての細胞が発見されています。単球は、体内に侵入した細菌などを食べて取り除くマクロファージのもとになる細胞です。
源を特定して病気を治療
単球は、がんや炎症性疾患(関節リウマチ、炎症性腸疾患など)などを増悪させる能力も持っています。単球は、腫瘍の増殖や転移を促進するマクロファージ、骨を破壊する破骨細胞や腸炎を増悪させる炎症性マクロファージとなってしまうからです。また、慢性骨髄単球性白血病の原因としても知られています。
白血病の治療に使う薬は副作用が強く、患者の体に大きな負担がかかります。そこで単球の源となる細胞だけに作用する抗体を投与することで副作用を抑える治療方法が研究されています。慢性骨髄単球性白血病のマウスを使った実験では、この抗体を投与することで症状を抑えることに成功しました。このように、特定の免疫細胞を作る源の細胞の発見は、新たな治療方法の開発にも役立つのです。
膨大な数からたった1つを見つける
源の細胞を見つけ出すときは、細胞表面分子の発現パターンを手掛かりにします。発現パターンは複数の分子が組み合わさって作られており、細胞ごとに違いがあるからです。ただし、ある発現パターンが本当にその細胞独自のものかは、検証が必要です。ほかの細胞にも同じ発現パターンがあると、手掛かりにならないからです。単球の源となる細胞を見つける過程では、約200種類の細胞表面分子を解析して絞り込んでいきました。目的とする源の細胞を見つけるためには、地道な研究が必要なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 医歯学系(旧・東京医科歯科大学) 総合研究院難治疾患研究所 生体防御学分野 教授 樗木 俊聡 先生
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