地中熱の利用に欠かせない、地下環境への影響の研究
普及し始めた地中熱利用
近年、日本でも地中熱の利用が始まっています。地中熱は地表から100~200メートルほどの地面にたまっている、太陽が熱源のエネルギーです。
例えば、東京スカイツリーの空調にも地中熱が利用されています。100メートルほどの地中に熱交換器を埋め、不凍液を使って熱を移動させているのです。エアコンの室外機が地面の中にあるようなものです。初期投資はかかりますが、電力使用量が半分ぐらいになるといわれているので、大規模公共施設などで普及しつつあります。
地中熱利用の問題点を明らかに
しかし、地中熱利用には問題があります。例えば、夏であれば地中に熱を捨てるわけですが、温度が上昇することで地下水中の化学物質の挙動に変化が生じる可能性があります。これでは地下水の利用に影響が出かねません。また、温度が上がることで微生物の生態系にも影響があるかもしれません。このように、地中熱の利用が、これまで安定的だった地下の化学性や生態系に影響を与えるのかという研究が進められています。現在、地中熱利用に関する明確なルールはないのですが、この研究が進むと、最適な地中熱の使い方が示されるだろうと考えられています。
広がる土壌物理学の可能性
地中熱を利用するには、こうした「環境影響評価」を行うこと、また地下の温度変化をきちんと予測することなどの課題を解決しなくてはいけません。研究は実験をするだけでなく、コンピュータシミュレーションも使います。統計学を応用し、実際にはばらつきのある地面の中を定量的に扱えるように研究が進んでいます。
こうした研究を扱う学問分野を土壌物理学と言います。土壌物理学はもともと農学が出発点ですが、最近では地中熱などのエネルギー問題や環境問題、放射性物質の土壌汚染など、いろいろな応用が考えられます。今後、地下をうまく利用することはますます重要になってくるので、この研究も可能性が広がると期待されています。
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