体にくっつくゲルの中に薬を閉じ込め、体内治療ができる!
水中で自然に形成される高分子ミセル
水に溶けやすい親水性ポリマーと、水に溶けにくい疎水性ポリマー、この2つを共有結合させると、水にも有機溶媒にも溶けるブロックポリマー(高分子)ができます。そのブロックポリマーが水中で自然に集まると、「高分子ミセル」が形成されます(自己組織化という現象です)。この高分子ミセルを医療に役立てる動きがあります。
患部に薬をじっくりと効かせることができる
高分子ミセルは、内側の内核(core)が水になじみにくく、外側の外殻(shell)が水になじみやすい二層構造になっています。そこで、薬の成分を水になじみにくい高分子ミセルの内側に閉じ込め、その薬が入った高分子ミセルを内部に組み込んだゲルを患部に塗るという使い方ができます。また、このゲルは、体の組織にくっつきます。
これまで、ゲルの中に入れた薬を患部に塗った場合、1日から数日で効果が切れていました。しかし、薬を入れた高分子ミセルを内部に組み込んだゲルを塗った場合は、二層構造のため薬の成分が溶け出しにくく、薬の効果が数週間まで延びることがわかりました。例えば、手術中の患部に高分子ミセルの中に薬効成分を閉じ込めたゲルを塗ると、手術後も数週間にわたって、薬の効果をじっくりと患部に浸透させることができるのです。
人への実用化に向けて日々実験
薬の成分を閉じ込めた高分子ミセルを入れたゲルについては、現在は、設計・物性評価・動物実験が行われている段階です。小さいマウスから始めてウサギ・犬・豚とどんどん大きな動物で実験して、人間に応用できるか、副作用はないかなどを見ていきます。
工業用材料の場合は、一般企業で開発した材料が、翌年には実用化されていることも多いのですが、医用材料は実験を繰り返しながら様子を見る必要があり、人体に使用できる許可が国から下りるまでにかなりの年月を要します。
医用材料の開発は非常に大変なのですが、高分子合成技術を駆使することによって、大勢の人の役に立つ魅力的な医用材料ができる可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京農工大学 工学部 応用化学科 教授 村上 義彦 先生
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