時が育んだ樹木のパワーを解き明かす生物材料工学
未来のために生物資源を生かす
「生物材料工学」は耳慣れない学問かもしれません。「生物」と「工学」、一見相反するような言葉が並んでいます。私たちの文明・文化は産業革命以降、石油などの化石資源を使って急速に進歩してきました。しかし、化石資源の大量消費は地球環境に大きな負荷を与えています。また化石資源が残り少ないと言われている今、再生可能な生物由来の有機性資源(生物資源)として、植物などをもっと有効活用する必要があります。生物材料工学は、主に樹木などの植物を生物資源としてとらえ、住宅や建築そのほかの材料として生かし、人類の生活と自然生態系とのバランスをとりながら循環させることをめざす学問なのです。
木にはまだ多くの不思議がある
木材は金属やコンクリートなどのように、目的に応じて人工的に設計された素材ではありません。ですから生物材料工学の重要な役割の一つは、自然が長い時間をかけて育んだ木の機能や性能を探り、秘められた力をいかに引き出し、生かすかにあります。
ところが木についてはまだ解明できていないことがたくさんあります。例えば木の性能は科学的に測れても、生えている木の寿命をピタリと言い当てることはできません。また炭素貯蔵効果を長く保つために、今使われている木材を壊さないで、いつまで長く安全に使い続けられるかを評価することも難しいのです。
木材を科学することは臨床検査に似ている
スギやヒノキといった木の種類による強度・弾性など性能の違いはどうか、何の材料として使うのがふさわしいのか。木は生きていますから、同じものは二つとありません。同じ種類の木でも、また同じ地域に生えている木でも、その性能には個体差があります。特性を調べ、材料として有効活用するための結果を導き出すには、膨大な数の木を調査する必要があります。それはちょうど、生命を守るために長い時間をかけて行われる医学の臨床検査に似ています。人間と同じように命を持つ木だからこそ、その力強い可能性を私たちに教えてくれるのでしょう。
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先生情報 / 大学情報
名古屋大学 農学部 生物環境科学科 木材工学研究室 教授 山崎 真理子 先生
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