少ないエネルギーで電子を制御する「省電力デバイス」を作ろう

少ないエネルギーで電子を制御する「省電力デバイス」を作ろう

電子は何をしているのか?

電子は原子核の周りを公転運動しています。そして原子核の近くを通過するとき、光速のスピードに近づきます。こういった性質と、半導体に不純物を添加したときの電荷の働きを情報処理に利用しているのが、エレクトロニクスにおける「電子デバイス」です。電流を流すと、電子は、原子核を回るだけでなく、ほかの原子へ飛び移り、ときには衝突し散乱します。この電子の跳ね返りは、パソコンやスマートフォンが熱を持つ一因であり、いわばエネルギーを無駄にしている状態です。

理想は太陽電池だけで動くこと

電子は、地球と同じように自転運動(スピン)もしています。スピンには右回りと左回りがありますが、この回転方向の切り替えも情報処理に併用し、電子デバイスのエネルギー消費を抑えることを研究しているのがスピン+エレクトロニクスの「スピントロニクス」という分野です。ただしスピンの切り替えにもやはり電流を使うので、それを一歩進めたのが電圧を使う方法です。電圧をうまく使えば、電流の500分の1程度の消費電力ですむという試算もあります。理想は、太陽電池のわずかな電力でデバイスを動かすことです。省電力のデバイスが求められるのは、世界的に電力消費量が増えているからです。中国やインド、東南アジアなど急激に発展し消費が増えている国々もあり、グローバルに必要な技術といえるでしょう。

半導体以外のものにも応用

こうした電子と原子核の動きは、スーパーコンピュータを使いシミュレーションします。量子力学のシュレーディンガー方程式で電子運動を、続いて電磁気学のポアソン方程式で電荷の位置エネルギーをという具合に、繰り返し何回も計算し直すことで解を得られます。この計算法は、半導体に限らず、例えば形状記憶合金など、原子核と電子の働きを利用した物質であれば応用できます。さらには脳やタンパク質など生物学的な分野にも原子核と電子の働きから考察するものは多くあり、さまざまな研究で利用されています。

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金沢大学 理工学域 数物科学類 教授 小田 竜樹 先生

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メッセージ

長所を伸ばすか、短所を克服するか、実力を上げるには2通りの道があります。受験勉強はともかくとして、長い目で見るなら自分が人より秀でていることを一生懸命やることをおすすめします。結局、社会に出てからは長所での戦いになるからです。
寝食を忘れてのめり込める、自分の長所となるものに出会うためにも、さまざまなことを経験してください。役に立ちそうにないことでも、何かしらの仕事につながるものです。自分の個性としっかり向き合い、進路を決めるようにしましょう。

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。