船とともに旅する「外来生物」から、生態系を守れ!

船とともに旅する「外来生物」から、生態系を守れ!

船はバランスを保つための水を積んでいる?

海を行き交う船の中には、貨物を運ぶ商船があります。商船は、港へ着き、コンテナなど貨物を降ろすと船体が軽くなります。軽くなるのはよいことのように思えますが、そうではありません。船体が軽くなって浮くと、スクリューの上部が海面に出てしまい、前に進みにくくなります。そのため、海水を船に積み、軽くなりすぎないようにします。この海水のことを「バラスト水」と呼びます。

生態系に影響を与える「バラスト水」

バラスト水は、環境問題とも深く関わっています。例えば、日本から中近東へ液化天然ガスを買いに行く場合、往路には荷物はありませんから、バラスト水を積みます。船は2週間ほどかけて中近東の港をめざしますが、バラスト水の中には生命力が強い海洋生物の卵や植物プランクトンが生きている場合があります。そして、液化天然ガスを積む際に、バラスト水は中近東の海に排出され、その中にいた生物は外来生物種として、そこに生息しはじめます。その逆もあり、日本へも外国の船がやってきてバラスト水を排水することで、新たな外来種を持ち込みます。このような形でバラスト水は、生態系に影響を与えているのです。

環境保全とコストを考える

バラスト水のほかにも付着生物が船の運行に影響を与えます。例えば甲殻類であるフジツボなどは船体に付くと、船体の表面がデコボコします。そうなると、推進抵抗が増えて、スピードが出なくなります。せっかく、理想的なかたちに作り上げた船型が崩れてしまい、運行するのにコストがかかるのです。フジツボは一度付いてしまうと取れないので、青色LEDや音波などを使った毒物を使わない付着防止策が望まれます。
また、バラスト水は、殺菌した後に排水するように国際条約で定められました。生態系を守って生物多様性を保全することと、経済性を考慮した船舶の運行が期待されているのです。

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神戸大学 海事科学部 海洋安全システム科学科 教授 三村 治夫 先生

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海事科学

メッセージ

「海事科学」という学問は、航海、海を利用した輸送、海洋・海底の調査、自然保護、防災などを研究対象としています。神戸大学海事科学部では、学生も目的意識を持ち、海や船に関するさまざまなことを学んでいます。卒業後は、航海士をはじめ、物流や機器製造などの分野に就職したり、また海の関係だけではなく、公務員になっている人もいます。
私も商船大学で学び、機関士を志しました。今は、研究者となって、人々に海の持つ魅力と素晴らしさを伝えたいと思っています。

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