子どもたちに表現の力を与えた自由な作文教育「生活つづり方」

子どもたちに表現の力を与えた自由な作文教育「生活つづり方」

自由な表現を大切にする作文教育

教育方法学には、授業づくり、学級づくりの研究があり、両方にまたがるテーマに「生活つづり方(かた)」があります。「生活つづり方」は、お題を出さずに、子どもたちに自由に書いてもらう日本独自の作文教育法です。長年の研究により、約百年前にざらばん紙と鉛筆が登場したことがきっかけで誕生したことがわかりました。それまで文房具として小学校で使われていた半紙や筆、石板、石筆に比べて安価で扱いやすく、子どもたちが自分の気持ちを自由に書くことができるようになったからです。時を同じくして、謄写(とうしゃ)版という持ち運びできる印刷機が導入されて文集が作られるようになりました。その結果、子どもたち自身が書いたものを教材として使用する動きが広がりました。

教師たちの信念

教師の帳簿や子どもたちの作文について文献調査が行われ、「生活つづり方」を授業に取り入れた教師たちの信念が明らかになっています。当時、貧しい家庭の子は家に帰ると働く必要があり、自宅学習が困難でした。職員室では、「貧しい子が勉強できないのは仕方ない」と嘲笑する声が多かったという文献が残っています。しかし、「生活つづり方」を実践する教師たちは諦めずに作文を通じて「自分を表現できる術」を子どもたちに教えました。そして、作文を参考にして、どんな子どもも活躍できる授業の組み立てや、学級づくりを工夫していたことがわかっています。

現代の授業づくりでの効果

現代でも授業に「生活つづり方」の作文を取り入れている教師がおり、研究では文献調査のほかに教師へのインタビュー調査が行われています。教師たちが着目しているのは、作文の上手下手ではなく、子どもたちが自分の言葉で語っているかどうかです。子どもの関心事や心配事などを参考に学級づくりを行うことで、問題行動軽減や成績向上につながった事例が報告されています。「生活つづり方」は未来にも生かせる教育法であり、海外での同様の教育との比較研究が進められています。

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神戸大学 国際人間科学部 子ども教育学科 准教授 川地 亜弥子 先生

神戸大学 国際人間科学部 子ども教育学科 准教授 川地 亜弥子 先生

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メッセージ

個性を尊重する時代ですが、一般的に個性とは優れている能力を言い、苦手な所を個性とは言いません。でも、苦手な所も「持ち味」と考えて、自分を大切にしてほしいです。また、勉強で苦手な教科もあるかと思います。私もずっと、英語を話したり聞いたりすることが苦手でした。しかし、研究で訪れたスペインのカタルーニャ地方で、小学校の先生や研究者と英語で気持ちを通わせることができた時、中高の英語教育が役立ったと感じました。学校で習ったことが人生のどこで役立つかわかりません。苦手でも、楽しむ気持ちを大事にしてください。

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