講義No.13561 機械工学 船舶・海洋工学 理工系その他 環境学

大型船の心臓部 ディーゼル機関の排ガスをクリーンに!

大型船の心臓部 ディーゼル機関の排ガスをクリーンに!

大型船が抱える排ガス問題

大型船舶のエンジンには熱効率の高いディーゼルエンジンが使われています。燃料として安価な重油が使えることで運航にかかるコストを下げられるメリットがある一方、排ガスに汚染物質が多く含まれるという問題があります。排ガスに含まれる汚染物質は、ガス状のものと微細な粒子(すす)の2種類があげられます。粒子に着目すると、ディーゼルエンジンの排ガスからすすを取り除く装置として、トラックやバスではDPFと呼ばれるセラミックフィルターが使われています。DPFは定期的に再生(つまりを取り除く)する必要があり、連続して長時間エンジンを止められないことが多い外航用の大型船では運用が難しくなります。

舶用機関用電気集じん装置の開発

陸上にある発電所やプラントでは、排ガスからすすを取り除くために電気集じん装置が広く使われています。電気集じん装置は、すすを帯電させ、電界をかけた空間ですすをマイナス極に引き寄せて捕集するもので、これを船に応用する研究が行われています。ただし船の場合、稼働状況によって排ガスの量や粒子濃度が頻繁に変わることや、排ガスの中に含まれる油分が電極に堆積してしまう、などの理由により安定した集じん性能を得ることが難しく、まだ実用化にいたっていません。将来的にはすすの9割以上が取り除かれて、排ガスがクリーンになることが期待されています。

代替燃料の排ガスも透明に

船は自動車に比べて長期間利用することを前提として作られており、価格も高額であるため、新しいものに変えるのは簡単ではありません。船舶から排出されるGHG削減のための選択肢の一つに、現在稼働している船の燃料を重油からバイオ燃料に切り替えることです。バイオ燃料の排ガスにもすすが含まれるため、電気集じん装置は引き続き役立ちます。
日本は島国であるため、貿易の大半を海運が担っており、国内の長距離輸送でも海運が大きな役割を果たしています。商船と呼ばれる大型船や中型船等に関する研究は、社会を支える礎の一つなのです。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 准教授 佐々木 秀次 先生

東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 准教授 佐々木 秀次 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

船舶・海洋工学、内燃機関工学、商船学

先生が目指すSDGs

メッセージ

日々手にする身近な機器に使われている技術には興味を引かれやすいと思いますが、それを支えている「インフラストラクチャー」に必要とされる技術にも関心を持ってほしいです。例えば、スマートフォンやタブレットなどのコンピュータを使うには電気が必要です。その発電にも、発電プラントや発電用燃料を運ぶ船にも、大きな機械が使われています。見えないところで大型機械が社会を支えているのです。重要な役割を果たすと同時にスケールの大きいものを動かす楽しさを味わえる、大型機械の研究に目を向けてもらえるとうれしいです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。