医療をはじめ、さまざまな分野に応用可能な有機化学
有機化学を用いて新しい化合物を作る
物質は分子の構造が少しでも変わると、元の特性が強まったり、毒性が高まったり、いろいろな反応を見せます。新しい有機反応を開発することで、医薬品につながるリード化合物を作り出すこともできます。例えば、三角形の構造をしているシクロプロパンという分子の構造を変えると、がんに効果がある抗腫瘍作用を持つ化合物や、抗ウイルス作用や抗HIV作用を持つ化合物を合成することができます。
魚類のフェロモンに含まれる主成分を解明
このような有機化学の手法はあらゆる分野に応用できます。例えば、魚類のフェロモンについての研究があります。希少種として知られているサクラマスの雌は、川上でフェロモンを含んだ尿を放出することで、多くの雄たちを引き寄せます。尿のフェロモンの主成分は、「L-キヌレニン」というアミノ酸の一種であることが研究により判明しました。このフェロモンの成分を有機化学的に合成し、特殊なフィルムに含ませて仕掛けに貼り付けたところ、なにも貼らない仕掛けに比べて多くの雄が集まってくる傾向が湖では認められました。しかし、川での実験の際は水の流れの影響なども考慮する必要があるので、さまざまな流れの河川で実験を行い、その精度を慎重に見極める必要があります。
有害種の効率的な駆除や希少種の保護が実現可能に
魚のフェロモンを含ませたフィルムシートがあれば、希少種の保護を目的とした生態のコントロールや有害な外来種の捕獲などさまざまな用途に応用できます。例えば、日本の在来種を食べてしまうブラックバスは特定外来生物に指定されています。現在でも雌の個体を使ったフェロモントラップという駆除方法がありますが、ブラックバスに有効なフェロモンの成分を含んだフィルムシートが開発されれば、より効果的なブラックバスの駆除が可能となります。
紹介した例は魚類のフェロモンへの応用ですが、そのほかにも有機化学の研究が進むことで、より豊かで便利な生活が実現するでしょう。
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先生情報 / 大学情報
信州大学 繊維学部 化学・材料学科 応用分子化学コース 教授 西井 良典 先生
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