いろいろな構造でいろいろな機能を創り出す無機・有機複合体「錯体」

いろいろな構造でいろいろな機能を創り出す無機・有機複合体「錯体」

水を吸うと、青からピンク色に変わるシリカゲル

水を吸う前は青色、水を吸ったら薄いピンク色。お菓子の乾燥剤などに使われるシリカゲルは、なぜ色が変わるのでしょうか。シリカゲルはもともとケイ素と酸素を主成分とする化合物(SiO・nH₂O)です。この化合物は、穴がいっぱいある多孔体の構造をしています。この穴の中に、水分子を吸い込むことができるのです。
しかし乾燥剤として実用するには、乾燥能力が残っているかどうかを簡単に知ることが必要です。シリカゲル自体は、無色なので、塩化コバルトを少しだけ含ませておきます。塩化コバルトは周りに水が存在しないときは、青色の四面体錯体となり、シリカゲルが水を吸って周りに水が多くなると、ピンク色の八面体錯体になります。すなわち、シリカゲルの保水状態が、塩化コバルトから生じる錯体でわかるのです。金属イオンは、周りの状況により、生じる錯体の構造や色などの性質がどんどん変わります(水以外に金属イオンに結合するものはたくさんあり、それらをまとめて配位子と呼びます)。いろいろな金属イオンと配位子との組み合わせで、生じた構造や性質・機能を調べるのが、錯体化学です。

金属イオンと配位子で様々な構造・機能を創り出す

ところで、シリカゲルのように、水を吸収する化合物を錯体で作ることができないだろうか? そうすればもっと簡単にいろいろなことができるのではないかと考えた研究者がいても不思議ではないと思いませんか? 実は、そのような考えは、錯体化学の大きな研究方向の一つになりつつあります。水以外に特定の有機物あるいは二酸化炭素や酸化硫黄の有害物質を選択的に吸収する多孔体、磁石や電導体としての性質をもつ三次元物質あるいは巨大分子も、近年合成されています。金属イオンと配位子の組み合わせでいろいろな構造のいろいろな機能を持つ錯体を創り出して行くのが、最近の錯体化学です。

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島根大学 総合理工学部 物質化学科 教授 半田 真 先生

島根大学 総合理工学部 物質化学科 教授 半田 真 先生

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メッセージ

錯体化学の対象とする元素は周期表全体に及び、その範囲は膨大です。錯体の合成技術は近年になって急速に発展しています。そのため古くから錯体の研究はされているのに、まだ有機化学のような体系化がされていない部分も残されています。だからおもしろいのです。錯体化学の発展に貢献してみてはどうでしょうか?新しい錯体を合成してこれまでに無い機能を見つけ出す余地がまだたくさん残されているのが、錯体化学の最大のおもしろみなのかもしれません。そんな可能性に満ちているのが錯体化学の世界なのです。

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