海と山をつなぐ、微生物たちの働き

海と山をつなぐ、微生物たちの働き

山が荒れると海が荒れる

海の植物プランクトンや海藻などが減少し、それを食べる魚たちも減ってしまうことを「海が荒れる」といいます。海の植物の生育には、川から流れ込む山や森の栄養分が深く関わっています。「山が荒れると海が荒れる」とは昔から漁師の間で言われていた経験知ですが、学問的に認められたのは、実は今世紀に入ってからです。

山の栄養が、海の栄養になるまで

生物の成長には窒素やリン、カリウム、鉄などの栄養が必要ですが、海の中では鉄分が不足しがちです。アルカリ性である海水には、ふつう鉄は溶けないからです。溶けていない鉄はただの鉱物であり、生物の栄養にはなりません。では、鉄はどうやって海水に溶けて生物の栄養となっているのでしょう。
これには山に存在する有機酸が大きく作用しています。木の葉が落ちると、微生物による分解の過程で腐葉土ができます。腐葉土にはフミン酸という有機混合物が多数含まれるのですが、このフミン酸が土の中の鉄と結合して川で運ばれ、汽水域(河川水と海水が混じり合う河口付近)でアルカリ性の海水と接しても溶けていられる鉄錯体(キレート鉄)となるのです。
最新の仮説では、海への栄養供給には汽水域で活動する微生物の働きが重要であると考えられています。特に川から流れてきた鉄の結合物は、汽水域で一度沈殿したのち、潮の干満によって徐々に海に運ばれていきます。この際に、微生物の分解作用によって可溶化と不溶化を繰り返しているのではと考えられています。

「里海」という概念をすべての人に

このように、山は海の生態系に深く関係しています。人の営みが及ぶ山を「里山」と呼びますが、同じように「里海」も存在します。熊が川に帰ってきた鮭を食べて、糞をし、鳥が海の魚を獲って山の巣に持ち帰ることで山に栄養を運ぶように、人間も山から海、海から山への生命循環の一角を担っている生物です。沿岸域の人々だけでなく、都市に住む人、山に住む人など、すべての人がその意識を持つことが大切です。

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公立鳥取環境大学 環境学部 環境学科 教授 吉永 郁生 先生

公立鳥取環境大学 環境学部 環境学科 教授 吉永 郁生 先生

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海洋微生物学、環境学

先生が目指すSDGs

メッセージ

海洋微生物学は、海に生息する、植物プランクトンや細菌などの目に見えない生物の学問です。海では、多くの物質が生命を通じて循環しています。中でも微生物の役割は非常に大きく、その営みは、実はあなたの生活や地球の環境にも密接に関わっています。
公立鳥取環境大学に入学したら、海に触れ、海で活動して、そこで感じたことを学問に取り入れてみましょう。最初は感性から入って、そこから知性に結びつけてください。大学に入るまでに勉強したことすべてが、あなたの血肉になっています。それをベースに、あなたの学問を作り上げましょう。

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本学は環境学部と経営学部の2学部を設置し、「環境」と「経営」二つの視点をもった普遍的な「知力」を土台に、人と人とのつながりを通して身に付く「人間力」を形成し、主体的に学び、考え、行動し、課題解決や新しい価値を創造できる、10年後、20年後の社会でも活躍できる人材を育成する学びを展開しています。
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