金属材料の「欠陥」を見て、制御して、新素材を開発する
生活・先端技術を支えるさまざまな金属材料
金属材料は、我々の生活や先端技術を支えるものです。新しい技術は、新しい金属材料によって牽引されているといっても過言ではありません。明石海峡大橋のような超重量物を支える材料、航空機ジェットエンジンの超高温に耐える材料、次世代高効率モーターのコア材料、高圧水素を蓄えるための材料、将来のエネルギー問題を半永久的に解決するといわれている核融合炉を支える材料、これらの多くは、金属材料です。金属材料の高性能化が、先端技術の実現の成否の鍵をしばしば握るのです。
金属の原子配列の乱れ「格子欠陥」
金属は、理想的には、原子が規則正しく並ぶことによってできています。しかし実際の金属材料には、原子配列の乱れがしばしば存在します。この乱れを、「格子欠陥」と呼びます。欠陥は、原子~ナノスケールのとても小さなものですが、金属材料の性質に大きく関わっています。例えば、「転位」と呼ばれる線状欠陥の動きを介して、金属材料は変形することができます。すなわち、金属材料の強さの起源は、欠陥の挙動にあるといえます。
透過電子顕微鏡で欠陥の挙動を直接観察する
先端金属材料の開発には、原子~ナノスケールの欠陥を見て、制御する必要があります。これらの欠陥は、光学顕微鏡では見ることができません。これを可能にする有力な装置が、光ではなく電子を使う顕微鏡である透過電子顕微鏡です。透過電子顕微鏡を使えば、例えば金属の変形にともなって「転位」が動く様子を直接観察することができます。あるいは、核融合炉のような耐放射線材料の中で、小さな欠陥が生成し、動き、成長する様子を直接観察することができます。このような研究は、より強い材料の開発に役立つだけではなく、純粋にサイエンスとしてもとても興味深いものです。これまでは見えなかったものを見えるようにする、透過電子顕微鏡技術の進展は、人類の未来を大きく変える可能性を秘めているのです。
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先生情報 / 大学情報
島根大学 次世代たたら協創センター 教授 荒河 一渡 先生
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金属材料学、電子顕微鏡学先生が目指すSDGs
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