錯体は、体の中で働いている

錯体は、体の中で働いている

酸素は、なぜ体のすみずみまで運ばれるのか?

「血液中のヘモグロビンが酸素を運んでいる」あるいは「血を作る成分としては鉄分がとても大切である」などは、よく知られています。では、ヘモグロビンと鉄分がどう関わっているのか知っていますか? 酸素はどのように肺から吸収されて、どうやって体の中のすみずみまで運ばれていくのでしょうか? 単なる鉄イオンでは、酸素運搬のメカニズム(機能)を持つことはできません。ヘモグロビンの中で鉄イオンまわりにポルフィリンという有機物が取り囲むように結合して、有機・無機複合錯体が存在するからこそ、酸素運搬の機能が生じます。血の赤い色は、ポルフィリンの色なのです。詳しいメカニズムについは、鉄イオンおよび酸素分子の周りの特殊な構造と電子状態が係わっていることがわかっていますが、不明なことはまだあります。それらを調べるために、酸素分子と結びつく鉄イオン周辺部分をまねて合成された鉄ポルフィリン錯体で研究することがあります。この研究手法が、錯体化学です。

イカやタコの血は青い

人間以外のさまざまな生き物も血液を使って酸素を体内で運搬しています。そこでおもしろいのがタコやイカです。これらの血は不思議なことに青色をしています。同じ血液なのに、人と色が違うのはなぜでしょうか。イカやタコの血にはヘモグロビンではなく、ヘモシアニンがあるからです。ヘモシアニンでは鉄ではなく、銅が人間の場合の鉄と同じような働きをしています。つまりイカやタコの体内では銅イオンの錯体が酸素を運んでいるのです。だから、その血も銅錯体の青色になるのです(教科書で、銅とアンモニアからなる錯体は深青色であると説明されていることを思い起こしてください)。
錯体化学の研究はこのように生命の謎の解明にもつながります。そのような研究は、生物無機化学とも呼ばれています。生命活動の不思議は呼吸(酸素の運搬)だけでは当然ありません。錯体を用いて解明すべき課題はまだまだ多くあります。

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島根大学 総合理工学部 物質化学科 教授 半田 真 先生

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メッセージ

錯体化学の対象とする元素は周期表全体に及び、その範囲は膨大です。錯体の合成技術は近年になって急速に発展しています。そのため古くから錯体の研究はされているのに、まだ有機化学のような体系化がされていない部分も残されています。だからおもしろいのです。錯体化学の発展に貢献してみてはどうでしょうか?新しい錯体を合成してこれまでに無い機能を見つけ出す余地がまだたくさん残されているのが、錯体化学の最大のおもしろみなのかもしれません。そんな可能性に満ちているのが錯体化学の世界なのです。

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