「錯体」の組成と構造をコントロール 役に立つ新しい分子を作り出せ
新しい「触媒」は分子から見直す
理科の授業で、二酸化マンガンを触媒として使い、過酸化水素水から酸素を発生させる実験を行ったことがあるでしょう。自分自身は反応せず周囲の反応を促進させる触媒は、石油からプラスチックの原料を作ったり、自動車の排出ガスに含まれる有害物質を無害化したりと、さまざまな分野で活用されています。反応速度がより速くなるような触媒が開発されれば、生産性や浄化性能なども向上します。さまざまな研究者が触媒の性能アップに取り組んでおり、近年は触媒材料を分子レベルから見直す研究も進んでいます。
硫黄を組み合わせて反応速度を大幅アップ
高い触媒性能が期待されているものの1つが「ポリオキソメタレート」です。金属と非金属の原子が化学結合した強酸性の「錯体」で、酸化還元能力が高いという性質を持っています。この錯体は、構成する元素の一部を別の元素と入れ替えることもできます。骨格部分を別の金属イオンに置き換えたりすることで、従来とは異なる性質のポリオキソメタレートを作ることもできます。リンやケイ素が含まれるポリオキソメタレートは、すでに世界中で研究が進んでいますが、硫黄を含むポリオキソメタレートはより触媒能力が高いと期待されています。
イレギュラーな実験環境から新発見も
化学反応で重視しなければならないのは、反応が起こっている「環境」です。ポリオキソメタレートの場合、酸性の溶液内で実験を行いますが、酸の濃度、加熱する温度・時間などの環境が変わると、生成されるポリオキソメタレートが変わってくるからです。逆に、わざとイレギュラーな環境で反応を試すと、想像を超えて新しいポリオキソメタレートが生成することもあります。
水素と酸素から電気を得る燃料電池用の電極などのように、新技術を実用化する際は新しい性質の触媒が求められます。宝探しのような実験の積み重ねが必要ですが、まだ存在しない新しい分子を生み出すことから、宝づくりの研究領域ともいえるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
高知大学 農林海洋科学部 海洋資源学科 教授 上田 忠治 先生
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