貝殻の殺菌パワーで食の安全を守る

貝殻の殺菌パワーで食の安全を守る

貝殻で食品を殺菌・抗菌

食の安全を守るのに、殺菌・抗菌処理は重要です。例えばカット野菜を殺菌する際、主に次亜塩素酸水を用いますが、天然素材を使って殺菌・抗菌できればなお安心でしょう。そうした観点から、「貝殻」の持つ殺菌・抗菌力が大きな注目を集めています。

ウイルスや耐性の強い菌にも効果が

貝殻は、そのまま川や海に沈めても水質浄化の効果が得られますが、800度以上の高温で焼く(焼成)と、主成分の炭酸カルシウムから二酸化炭素が分離し、酸化カルシウムに変化します。この焼成貝殻はアルカリ性の力が強く、殺菌効果もきわめて強力です。大腸菌やO-157、黄色ブドウ球菌、カビなど、基本的にどんな菌にも効くうえ、ノロウイルスやインフルエンザなどのウイルスにも効果があります。
加えて、100度以上の高温でも殺菌しにくい芽胞(胞子)も、焼成貝殻を用いれば常温で殺菌できます。また、菌は何かに付着してバイオフィルムという菌膜を形成することで、熱や抗菌剤への強い耐性が出ますが、その場合の殺菌効果も高いという実験結果が出ています。

循環型でエコにも配慮

このほかにも、焼成貝殻は、脱臭剤に用いたり、壁材に混ぜてホルムアルデヒド(刺激臭のある気体)を吸着分解させたり、洗濯洗剤に混ぜて洗浄力を上げるなど、さまざまな場面での活用が可能です。さらに言うなら、使用した液を水に流せば排水路まで浄化され、そのまま川に流しても生態系を壊すことなく海に戻るという、循環型でエコに配慮したユニークな抗菌剤なのです。実際、北海道や青森などホタテの産地では、年間30万トンもの貝殻が公害問題になっていますが、抗菌剤として使用すれば安全に海に返すことができます。
殺菌に万能薬はありません。貝殻のように安全で信頼できるものを数多く見つけ、それらを組み合わせることで、総合的に食の安全を高めていくことが肝要です。社会の高齢化にともない、免疫力の弱い人も増加している現代、安全性の高い抗菌技術のさらなる開発が求められています。

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神奈川工科大学 健康医療科学部 管理栄養学科 教授 澤井 淳 先生

神奈川工科大学 健康医療科学部 管理栄養学科 教授 澤井 淳 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

食品衛生学、微生物制御学

先生が目指すSDGs

メッセージ

食品衛生学というのは総合的な学問です。生物や化学、物理、数学など、求められる知識も幅広いので、高校では苦手意識を持たずに、どの分野にも興味を向けてみましょう。見方を変えれば、これらの分野のどれかを好きなら、誰にでも挑戦できる学問だとも言えます。例えば数学が得意なら予測微生物学など、食品衛生の中でも数学的な研究を行う分野に進むこともできます。また、私たちの日常に欠かせない「食」の安全を守るという、非常にやりがいのある学問でもあるのです。

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『学生本位主義』をスローガンに、“力と自信がつく教育”を実践する神奈川工科大学。学びの内容の充実を図り、改革を続け、2020年4月、看護学科・管理栄養学科・臨床工学科を、健康医療科学部に再編。健康医療科学部は、理工系大学の利点を活かし、国家資格取得+αの教育と研究を展開します。教育・研究・学生サービスの施設・設備を整えた、快適な学びの環境を提供するのびのびとしたキャンパスは、これからも進化を続けていきます。