ヤドカリの意外な作戦! 錯覚を利用した「家の奪取」の真相

家を奪うにしては弱々しい攻撃
ヤドカリは成長にともなって新しい殻が必要になりますが、自然界ではちょうどよいサイズの「空き家」が不足しているため、殻の奪い合いが生じます。相手の殻をつかんで揺らしては、自分の殻をコツコツ打ちつけるのをくり返して、相手の殻を奪おうとするのです。
ところがこの行動は、たたきつけたり押しのけたりするような激しい攻撃ではなく、見た目にはかなり弱々しいですが、それでも相手が殻を放り出して逃げてしまいます。打ちつける速さや回数が勝敗を決めるのではないかと言われてきましたが、「こんな弱い刺激で大切な家をあきらめるのはなぜ?」という疑問から、新たな仮説が生まれました。
天敵によって異なる逃げ方
ヤドカリには2種類の天敵がおり、そのタイプによって逃げ方を変えます。殻から引っぱり出すタイプの天敵の場合は殻の奥にこもってじっと耐えますが、イシガニなどのハサミの強いカニや顎の発達した魚など、殻を割るタイプの相手だと、急いで殻を捨てて逃げてしまいます。実際に、イシガニに襲われたヤドカリが、殻を完全に割られる前に脱出して逃げる様子も観察されています。殻を守るよりも命を守るほうを選ぶというわけです。
弱い刺激に潜む「錯覚」のワナ
本来とは違う場面で、「あれ?」と錯覚してしまうような反応を引き起こす現象を、「感覚トラップ」と呼びます。ヤドカリの殻の奪い合いも、コツコツと殻をぶつける刺激が、殻を割るタイプの天敵の攻撃と似ているため、間違って「食べられる!」と錯覚して殻を放り出してしまうのではないか、という仮説が生まれました。この説が正しければ、もともとは天敵から身を守るために進化した防御の仕組みが、意図せずヤドカリ同士の殻の奪い合いにも影響していることになります。
この研究が進めば、動物の行動や感覚の進化に新たな視点が加わり、自然界にどれだけ巧妙な「錯覚を利用する戦略」が存在するのかが、明らかになるかもしれません。
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和歌山大学 教育学部 科学教育 教授 古賀 庸憲 先生
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