効果的に有機合成ができる場を作り出す
人体は酵素が反応しやすい場
人間の体内では、体温程度の温度下で酵素が働いて反応が進みます。しかし実験室内のフラスコで同じ反応をしようとすると、高い温度を与えたり、強い酸やアルカリを加えたりする必要があります。体内のように温和な条件で反応を起こす場は作れないものでしょうか?
プロトンによる反応
人体の70%は水で構成されています。水分子の中の酸素は水素より電子を引っ張る力が少し大きいので、水分子の酸素はごくわずかにマイナスを帯びていて、反対に水素はプラスを帯びています。ここにもう1つの水分子を入れると、1つ目の分子のマイナスを帯びた酸素原子と2つ目の分子のプラスを帯びた水素が引き合います。これが水素結合の状態です。
それでは水分子が並んだ中に、電子を取り除いた水素原子「プロトン」を1つ入れたらどうなるでしょうか。最初の水分子の中のマイナスを帯びた酸素とプロトンがつながり、もともとある水素原子の1つと一緒になって新たな水分子を作ります。ここで押し出された余剰のプロトンは隣の水分子の酸素と結合します。これが繰り返され、最後の水分子の中から余ったプロトンが現れるのです。つまり、プロトンにより最初の1つを帯電させれば、すべての分子を一瞬で帯電させることになるのです。アレニウスの定義によれば、水溶液中で水素イオンを放出する物質は酸だとされているため、プロトンにより帯電させることで水は酸となり、帯電した場所ごとに酸による触媒ができます。
反応の場の構築
すべての元素は原子核と電子でできており、原子核と原子核が電子ののりでくっついて物質は成り立っています。電子ののりを切ったりつけたりすることが化学的な反応だと考えれば、思うように電子を動かせる場を作ることで自然な反応が導けるのです。反応のための特殊な環境を作らずに、より自然な形で効果的に有機合成ができるようになるだけでなく、人体の中に薬を取り込んだときの反応の検証にも応用できるのです。
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横浜薬科大学 薬学部 漢方薬学科 教授 磯村 茂樹 先生
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