真珠の秘密を探れ~生き物が作る鉱物結晶~
生物が作る宝石
真珠は生物が作り出す宝石です。アコヤ貝や白蝶(しろちょう)貝などは、もともと貝殻の内側に真珠と同じような光沢の層を形成しています。これらの貝の内部に小石などの異物が入った際、貝殻の内側と同じ層が異物の周りに形成され、球体の真珠が生まれます。貝の身の外周部にある外套(がいとう)膜というひだから貝殻を作る成分が分泌されるため、異物とともに入った外套膜の一部が細胞分裂し異物を覆うことで、異物の周りに真珠層が作られるのです。日本は明治時代後期に世界に先がけて養殖による量産に成功し、現在も高品質の真珠を産出しています。
有機物と無機物の積層が輝きの秘密
真珠の成分の約95%は無機鉱物である炭酸カルシウムで、残りの約5%は貝類が分泌する有機物です。炭酸カルシウムは地層からの鉱物としても得られ、そのほとんどは大理石などのカルサイトか、アラレ石などのアラゴナイトという結晶体です。アコヤ貝の内側の真珠層はアラゴナイトでできています。しかし、鉱物のアラゴナイトは真珠のように虹色には輝きません。真珠やアコヤ貝内側の真珠層を電子顕微鏡で観察すると、有機膜がつくるフレームの中に300ナノメートルほどのごく薄い炭酸カルシウムの扁平(へんぺい)状のプレートがレンガのように積み重なった構造をしています。積層しているそれぞれの層から光が反射することで、微妙にずれた複数の光の波が干渉し合って虹色の輝きに見えるのです。
生物を模倣した材料合成法をめざす
アコヤ貝と同じように炭酸カルシウムを扁平状に作ることは、現在の化学の技術では大変困難です。そのため、アコヤ貝が分泌する有機物分子や遺伝子を特定し、機能を解明する研究が進められています。真珠層形成のメカニズムを解き明かせれば、真珠養殖の質の向上につながるだけでなく、新たな材料開発手法のヒントになることが期待できます。生物が鉱物結晶を作る手法を人間が模倣することで、地球環境に優しい新たな工業を生み出す可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京大学 農学部 生命化学工学専修(農芸化学) 教授 鈴木 道生 先生
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