「免疫記憶」を分子レベルで解明し、難病治療に役立てる
免疫は、害を及ぼさないものには寛容
免疫は、病原菌などの異物から私たちの健康を守る高度な生命システムです。昔から「はしかは二度かかりなし」と言われますが、一度かかった病気を記憶して、次に同じ病原体が侵入してきても防衛できるような仕組みが、血液の中のリンパ球を中心とした免疫細胞のネットワークによって作り上げられているのです。
免疫には、異物であっても自分に害をなさないものは攻撃しない、「免疫寛容」という性質があります。ヒトの腸には100億個もの細菌がいますが、有用なビタミンを作るなどしてヒトと共生しています。ですから腸内細菌は「異物」であっても免疫の攻撃対象にはならないのです。
自分自身を敵と見なす自己免疫疾患
ところが、免疫寛容が破綻(はたん)すると、さまざまな不都合が起こります。
本来は無害な花粉を、排除すべき異物として認識するために起こるのが花粉症です。また、関節リウマチや多発性硬化症など数々の自己免疫疾患は、関節の細胞や神経など自分自身を攻撃することで起こる病気です。
こうした免疫疾患では「免疫記憶」の存在が病気の治療を困難にしています。一度認識した対象は記憶されるため、花粉の季節には毎年花粉症の症状が起こりますし、自己免疫疾患も完治が難しく、何度も再発を繰り返すのです。
分子レベルの研究で免疫記憶の解明に挑む
では、「免疫記憶」はどのような仕組みで作られ、どこで維持されているのでしょうか。世界中の免疫学者が取り組んでいる研究テーマですが、記憶細胞そのものの存在については、まだ謎だらけです。遺伝子改変マウスを使って、生体の中で免疫反応がどのように起こるか、分子レベル、遺伝子レベルの研究が進められています。
免疫記憶のメカニズムが解明されれば、誤った免疫記憶を消し去ることで、花粉症や自己免疫疾患の根本的な治療が可能になります。また免疫記憶を強めることで、一生その病気にはかからない夢のワクチンが実現する可能性もあるのです。
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