講義No.06362 医学

「免疫記憶」を分子レベルで解明し、難病治療に役立てる

「免疫記憶」を分子レベルで解明し、難病治療に役立てる

免疫は、害を及ぼさないものには寛容

免疫は、病原菌などの異物から私たちの健康を守る高度な生命システムです。昔から「はしかは二度かかりなし」と言われますが、一度かかった病気を記憶して、次に同じ病原体が侵入してきても防衛できるような仕組みが、血液の中のリンパ球を中心とした免疫細胞のネットワークによって作り上げられているのです。
免疫には、異物であっても自分に害をなさないものは攻撃しない、「免疫寛容」という性質があります。ヒトの腸には100億個もの細菌がいますが、有用なビタミンを作るなどしてヒトと共生しています。ですから腸内細菌は「異物」であっても免疫の攻撃対象にはならないのです。

自分自身を敵と見なす自己免疫疾患

ところが、免疫寛容が破綻(はたん)すると、さまざまな不都合が起こります。
本来は無害な花粉を、排除すべき異物として認識するために起こるのが花粉症です。また、関節リウマチや多発性硬化症など数々の自己免疫疾患は、関節の細胞や神経など自分自身を攻撃することで起こる病気です。
こうした免疫疾患では「免疫記憶」の存在が病気の治療を困難にしています。一度認識した対象は記憶されるため、花粉の季節には毎年花粉症の症状が起こりますし、自己免疫疾患も完治が難しく、何度も再発を繰り返すのです。

分子レベルの研究で免疫記憶の解明に挑む

では、「免疫記憶」はどのような仕組みで作られ、どこで維持されているのでしょうか。世界中の免疫学者が取り組んでいる研究テーマですが、記憶細胞そのものの存在については、まだ謎だらけです。遺伝子改変マウスを使って、生体の中で免疫反応がどのように起こるか、分子レベル、遺伝子レベルの研究が進められています。
免疫記憶のメカニズムが解明されれば、誤った免疫記憶を消し去ることで、花粉症や自己免疫疾患の根本的な治療が可能になります。また免疫記憶を強めることで、一生その病気にはかからない夢のワクチンが実現する可能性もあるのです。

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先生情報 / 大学情報

東北大学 医学部 医学科 教授 石井 直人 先生

東北大学 医学部 医学科 教授 石井 直人 先生

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医学、免疫学

メッセージ

私は医学部で免疫学の研究をしています。
あなたは「医学部」をどのようにとらえていますか? 医学部は、単に医師を養成するだけの学部ではありません。「医学という学問」を勉強するところです。医学は生物学のひとつですが、人の病気を治すことを目的にした、人間を対象にした学問です。その意味で、「人の病気を治したい」「人を対象にした研究をしてみたい」という人はぜひ医学部に入ることをおすすめします。私たちと一緒に勉強しましょう。

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建学以来の伝統である「研究第一」と「門戸開放」の理念を掲げ、世界最高水準の研究・教育を創造しています。また、研究の成果を社会が直面する諸問題の解決に役立て、指導的人材を育成することによって、平和で公正な人類社会の実現に貢献して行きます。社会から知の拠点として人類社会への貢献を委託されている東北大学の教職員、学生、同窓生が一丸となって、「Challenge」、「Creation」、「Innovation」を合言葉として、価値ある研究・教育を創造して、世界の人々の期待に応えていきたいと考えます。