匂いで寿命をコントロール? 実はすごい、匂いの潜在能力
嗅覚と身体の変化の関係
食べ物の匂いで唾液が出たり、ハーブの香りでリラックスしたりと、私たちの心や身体は匂いに反応して変化します。この仕組みを理解するには、嗅覚の神経回路がどのように作られて、どのように機能しているのかを知ることが重要です。そこで遺伝子の解析が容易なショウジョウバエを用いた嗅覚研究が行われています。ショウジョウバエの研究から、匂い刺激が寿命や免疫を制御することがわかってきており、匂いの持つ潜在能力に注目が集まっています。
嗅覚受容体の働きを調べる
ショウジョウバエには匂いを感じる嗅覚受容体が約100種類あり、例えばバナナの匂いを嗅ぐとAとBの受容体が活性化するというように、脳は「活性化する受容体の組み合わせ」で匂いを認識しています。それぞれの受容体の働きを調べるには、受容体の遺伝子を壊した変異体を使います。C受容体の遺伝子を壊して免疫に異常が出たら、C受容体は免疫に関係があるとわかります。では、どのような匂いがC受容体を活性化するのでしょうか。これを調べることで、匂いと免疫系の関係を知ることができます。このように、遺伝子レベルから個体レベルまで一貫して研究できるのは、ショウジョウバエ研究の大きなメリットです。
脳の中の神経細胞が正確につながる仕組み
さらに、匂いの感知に関わる受容体を持つ神経細胞が、脳のどこの領域に接続して、どのように匂い情報が統合されるのかということも研究されています。ショウジョウバエの脳には約4万個の神経細胞がありますが、「遺伝学的モザイク解析法」という特殊な方法を使うことで、「脳の中」のひとつの神経細胞だけを蛍光タンパク質で光らせて「見える化」することができます。これにより、神経細胞が正確につながるための仕組みを知ることができます。
高度な遺伝子解析が可能である利点を活かし、ショウジョウバエを用いた基礎研究はとても速いスピードで進んでいます。そしてショウジョウバエで明らかになった研究成果は、ヒト疾患の理解や治療戦略にも大きく貢献しています。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 生物科学科 教授 千原 崇裕 先生
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