講義No.12613 生物学

匂いで寿命をコントロール? 実はすごい、匂いの潜在能力

匂いで寿命をコントロール? 実はすごい、匂いの潜在能力

嗅覚と身体の変化の関係

食べ物の匂いで唾液が出たり、ハーブの香りでリラックスしたりと、私たちの心や身体は匂いに反応して変化します。この仕組みを理解するには、嗅覚の神経回路がどのように作られて、どのように機能しているのかを知ることが重要です。そこで遺伝子の解析が容易なショウジョウバエを用いた嗅覚研究が行われています。ショウジョウバエの研究から、匂い刺激が寿命や免疫を制御することがわかってきており、匂いの持つ潜在能力に注目が集まっています。

嗅覚受容体の働きを調べる

ショウジョウバエには匂いを感じる嗅覚受容体が約100種類あり、例えばバナナの匂いを嗅ぐとAとBの受容体が活性化するというように、脳は「活性化する受容体の組み合わせ」で匂いを認識しています。それぞれの受容体の働きを調べるには、受容体の遺伝子を壊した変異体を使います。C受容体の遺伝子を壊して免疫に異常が出たら、C受容体は免疫に関係があるとわかります。では、どのような匂いがC受容体を活性化するのでしょうか。これを調べることで、匂いと免疫系の関係を知ることができます。このように、遺伝子レベルから個体レベルまで一貫して研究できるのは、ショウジョウバエ研究の大きなメリットです。

脳の中の神経細胞が正確につながる仕組み

さらに、匂いの感知に関わる受容体を持つ神経細胞が、脳のどこの領域に接続して、どのように匂い情報が統合されるのかということも研究されています。ショウジョウバエの脳には約4万個の神経細胞がありますが、「遺伝学的モザイク解析法」という特殊な方法を使うことで、「脳の中」のひとつの神経細胞だけを蛍光タンパク質で光らせて「見える化」することができます。これにより、神経細胞が正確につながるための仕組みを知ることができます。
高度な遺伝子解析が可能である利点を活かし、ショウジョウバエを用いた基礎研究はとても速いスピードで進んでいます。そしてショウジョウバエで明らかになった研究成果は、ヒト疾患の理解や治療戦略にも大きく貢献しています。

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先生情報 / 大学情報

広島大学 理学部 生物科学科 教授 千原 崇裕 先生

広島大学 理学部 生物科学科 教授 千原 崇裕 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

神経科学、発生生物学、細胞生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は研究者になることは全く考えていなかったのですが、大学で出会った先生がとても楽しそうに研究されているのに感化され、この道に進みました。たくさんの人と話し、その出会いを大事にして、目標となるような人を見つけると、自分の生き方を考える参考になります。
研究者というのは、世界のトップになれる稀な職業です。世界中の誰も知らないことを見つけ出した時の喜びは何ものにも代え難いです。若いあなたには無限の可能性があるのですから、せっかくなら世界レベルで活躍することを意識して進路を考えてほしいです。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

広島大学に関心を持ったあなたは

広島大学は社会に貢献できる優れた人材を育成し、科学の進歩・発展に貢献しつつ、世界の教育・研究拠点を目指す大学です。緑豊かな252ヘクタールという広大な東広島キャンパスを抱え、また、国際平和文化都市である広島市内等のキャンパスを含め、12学部、4研究科、1研究所、大学病院並びに11もの附属学校園を有しています。 新しい知を創造しつつ、豊かな人間性を培い、絶えざる自己変革に努め、国際平和のために、地域社会、国際社会と連携して、社会に貢献できる人材の育成のために発展を続けます。