養殖魚を病気から守る「魚類免疫学」の果たす役割
魚の病気と免疫
水の中で生きる魚も、私たち人間と同じように病気にかかり、また、病原体に対抗するために免疫機構が働きます。病気の原因としては細菌やウイルス、寄生虫などがあり、ヘルペスウイルス病や白点病やエラ腐れ病など、多様な病気が存在します。こうした魚の病気や、それを防ぐ免疫の研究を行う学問が「魚類免疫学」です。
特に、限られたスペースの中で飼育される養殖魚の病気は、一度広まると全体に被害が及ぶため、養殖業者にとっては死活問題になります。そのため、魚の免疫力を高めて、病気を予防する研究が求められています。
ワクチン投与で養殖魚を病気から守る
魚の免疫力を高める方法に、特定の病原体に対する防御力をつける、ワクチン投与があります。人間の予防接種と同様に、1匹ずつ注射で投与する方法が一般的で、ワクチンとともにアジュバントという補助剤を注入すると、魚の免疫力がより高まります。
養殖魚へのワクチン投与は、人間が食べる部分(可食部)を避けて、おなかの中(腹腔)などに行われるのが多いです。また、魚の体内に残留し、人の健康に危害を加えるような物質は投与されず、消費者の安心と安全に配慮されている点が特徴です。
人間と同じような抗体をニジマスの腸に発見
魚類免疫学の研究が盛んになったのは、養殖技術が向上した1980年代以降です。養殖魚の病気による経済的なロスをなくすため、さまざまな研究が重ねられてきました。日本は担い手不足や近海の海洋資源の減少で漁業が衰退しつつありますが、北欧や南米、中国を中心として、世界の養殖や水産業は伸びる一方です。
近年の研究では、病原体や毒素を無力化し、バクテリアを殺傷する、人間の免疫グロブリン(IgA抗体)と同じ機能をもったIgT抗体がニジマスの腸内に発見され、注目を集めました。世界の水産を支えるだけでなく、動物の進化を読み解く上でも、魚類免疫学が果たすべき役割はますます高まっているといえるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
福井県立大学 海洋生物資源学部 先端増養殖科学科 准教授 瀧澤 文雄 先生
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魚類免疫学、魚病学先生が目指すSDGs
先生への質問
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