150年前、日本人は医者を信用していなかった?!
わたしたちの体と、医療と、社会
2020年より、新型コロナウイルス感染症の流行が、社会に大きな影響を及ぼしています。感染症は多くの場合、病気を引き起こす病原体がヒトからヒトへと移ることにより起こります。そのため、感染症の流行は、個々人の生命や健康の問題にとどまらず、社会で対処すべき問題ともなります。感染症の対策が、マスク・うがい・手指の消毒から、国家の医療体制や政策にまで、幅広くおこなわれるのもそのためです。
医療のすがたを比較の視点で考える
感染症は、これまでも世界各地で流行をくりかえしてきました。もちろん日本でも、古くから流行の記録が残っています。興味深いのは、そうした流行病の対処法が、病そのものの性格や時代・地域によって大きく異なっていた点です。
たとえば江戸時代の日本では、病の流行する原因を、病原体がヒトからヒトへと移動したからとは考えませんでした。もともと体の中にある病気の毒が、自然界の影響を受けて一斉に表に出たものと考えたのです。そのため、病の流行を防ぐという「予防」の発想はなく、当時の医療は「治療」が中心でした。
病には伝染するものもあると広く知られるようになるのは、明治時代です。伝染病が社会にはびこるのを「予防」するため、明治政府は予防接種を強制したり、施設をつくって患者を隔離したり、港に入る船を検疫したりしました。その結果、伝染病の患者が病原体と同一視され、伝染を避けようとする人々のふるまいが、患者の「差別」につながることもありました。どこか見覚えのある光景ですね。
医療から見える現代社会
ここでは感染症の歴史を例に採りましたが、データの比較と検証を通じて医療のあり方を問うことは、そのまま現代社会のあり方を問い直すことにも通じます。
医療と言っても、病院の中だけの話ではありません。わたしたちが日々「健康」を保つためにおこなう行動もまた、重要な考察の対象です。それらがどこから来て何につながっているか、反省的に考えるのが、保健医療社会学という学問領域です。
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先生情報 / 大学情報
佛教大学 社会学部 現代社会学科 教授 香西 豊子 先生
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