自然界に眠る未知の薬を探す、生薬研究のロマンあふれる世界
薬学の原点である「生薬」の効能
人間は、近代医学が発展するよりもはるかに遠い昔から、植物などに由来する天然素材を生薬(しょうやく)として、病気の治療や体質改善に活用してきました。例えば、約2000年前に中国で著された『神農本草経』という書物では、薬効の強さに応じて3段階に分類された365種類の薬が紹介されています。そうした天然素材の化学成分で好ましい作用を持った物質をさらに改良したり、それらをモデルにまったく新しい化合物を合成したりすることによって、多くの優れた医薬品が開発されています。
植物が秘めていたマラリア治療薬のヒント
東南アジアの多くの地域で見られるマメ科の植物、タガヤサン(カッシア・シアメア)は、マラリアにかかった人がその樹皮を煎じて飲むと熱が下がると言われていて、現地の人々の間では有効な民間薬として知られていました。その成分を分析すると、それまで知られていなかった、強力な抗マラリア活性を持つ物質が見つかったのです。この新しい物質は「カッシアリン」と名付けられ、人工的な合成にも成功しています。これまで利用されていた「キニーネ」などの抗マラリア剤に耐性を持つマラリア原虫が増えてきている中で、カッシアリンには新たな治療薬としての期待が集まっています。
自然の中から新たな薬を見つけ出す
世界にはほかにも、植物などのさまざまな天然素材による生薬や伝承薬、そしていまだに利用されていない植物資源が無数に存在します。それらを研究・分析すれば、がんやエイズ、認知症など、社会的に問題になっている病気の治療に役立つ物質を発見できる可能性があります。また、生活習慣病の予防や改善に有効なハーブの薬効を解明すれば、新たなサプリメントの開発にも役立てることができます。
世の中でまだ誰も見つけたことのない物質を自然の中から発掘し、その正体と作用を解明する、「自然界に眠る未知の財宝を探究する」というロマンが、生薬の世界にはまだまだ存在しているのです。
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先生情報 / 大学情報
星薬科大学 薬学部 生薬学教室 教授 森田 博史 先生
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