1%しか培養できていない「微生物」の不思議

ほかの生物が住めない場所でも生きられる微生物
私たちの生活圏に存在するカビや細菌類はもちろん、深海や地底、成層圏に近い上空、マイナス数十℃の極寒環境から100℃を超える高温環境まで、地球上のありとあらゆる場所に微生物は存在していますが、現在の技術では、地球上に存在する微生物の、およそ1%しか培養できていないと言われています。
さらには1%のうち、なぜその環境下で生きているのか、どういう能力を持っているのか、はっきりわかっている微生物の数は、ほんのごく一部です。顕微鏡を使わないと観察できない、小さな微生物が持つ大きな力を解明し、私たちの生活にとって有益な活用法を探るのが、「応用微生物学」という学問です。
さまざまな分野で活用されている微生物の「力」
納豆や味噌(みそ)、ヨーグルトなどの発酵食品をはじめ、ペニシリンやワクチンなどの医薬品、農業用資材、工業用素材などで微生物の力が活用されています。微生物が有機物を分解する力で、海や土壌を浄化する研究も進んでいます。ただ、微生物全体から見ると、ごくわずかな種類を利用しているにすぎず、能力も活用法も未知の微生物が数え切れないほどいます。特に、深海や地底の微生物は、地表の数十倍もの水圧・地圧がかかっても変性しない特殊な細胞構造を持っているので、研究が進めば、想像もできない活用法があるかもしれません。
身近な素材から素晴らしい価値を生み出す
現代化学の基礎となった「錬金術」を知っていますか? ありふれた金属に何らかの処理を施すことで、金などの貴金属を作り出す試みのことです。応用微生物学の研究も、微生物を使って、泥や土、水、空気などのごく身近な素材から価値のあるモノ(効果)を生み出そうとする学問で、言うなれば「錬菌術」です。
極限的な環境ばかりでなく、人間と同じ生活環境にいる微生物の中にも、新たな活用法が期待されている微生物がたくさんいます。微生物の数だけ夢があるのが、応用微生物学の楽しさなのです。
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先生情報 / 大学情報

崇城大学生物生命学部 生物生命学科 教授長濱 一弘 先生
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農学、応用微生物学、食品衛生学先生が目指すSDGs
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