細胞情報伝達のスタート地点、受容体起動のメカニズムを探る

脳にある性ホルモン受容体の機能とは
細胞では、さまざまな情報が伝達され、それに対する応答反応が起こっています。情報が伝達されていくときの最初のイベントは、受容体への情報伝達物質(リガンド)の結合です。受容体は細胞の表面や内部などいろいろなところに存在していますが、特に核の中にあって遺伝子の転写を制御している「核内受容体」に注目した研究が行われています。
脳の細胞核内には性ホルモンの受容体が多くあります。性ホルモンは精巣や卵巣などで生殖機能を調節する働きがあり、それらの受容体の機能についても解明が進められています。例えば女性ホルモンなどの性ホルモンが、それらの受容体に結合することで、痛みを抑える神経伝達ペプチドの転写などを制御している可能性があると考えられています。
環境化学物質の影響
受容体は、環境ホルモンと呼ばれる環境中の化学物質のターゲットにもなり得ます。本来生体のホルモンが結合するはずの受容体に環境ホルモンが結合してしまうことで、健康に悪影響を及ぼすのです。実際に、神経系や生殖系への害が報告されている「ビスフェノールA」という環境化学物質と非常に強く結合してしまうエストロゲン関連受容体が発見されました。
環境化学物質が健康に影響を与えるのは、主に胎児の期間での暴露であると考えられています。そこで、妊娠中のマウスにビスフェノールAのような化合物を添加した食餌を与えて、生まれてきた子マウスの行動を解析し、ビスフェノールAのような化合物が神経系に何らかの影響を与えるのかどうかが調べられています。
なぜ受容体により強く結合するのか
このビスフェノールAにフッ素がついた誘導体は、さらに強く受容体と結合することがわかっています。一般的にハロゲン元素が含まれる環境化学物質は受容体に強く結合することが知られていますが、本来のリガンドの多くはハロゲン元素を含んでいません。それにもかかわらずハロゲン元素があるとなぜ強く結合するのか、結晶構造や結合の強さを解析してその理由が調べられています。
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九州大学理学部 化学科 教授松島 綾美 先生
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