タンパク質の折りたたみ構造を物理で解明!
アミロイド症はタンパク質の変性から
タンパク質は直接、生命現象に関わる重要な物質であり、その機能は折りたたみ(フォールディング)構造に依存すると言われています。タンパク質は1個ずつ単独に折りたたまれていて、内側は水を嫌う疎水的なもの、外側は水を好む親水的なもので構成されています。親水的なもの同士はくっつくことはないのですが、何かの拍子にこの構造がほどけてしまうと、内側にある疎水的なものが飛び出して、ほかのタンパク質にくっついてしまうことがあります。これがいわゆる「アミロイド症」と呼ばれるもので、「アルツハイマー病」や「BSE(牛海綿状脳症)」の原因ではないかと考えられています。
計算機シミュレーションがタンパク質の謎を解く!
アミロイド症は間違った折りたたみ方(ミスフォールディング)をしたタンパク質がアミロイド線維と呼ばれる凝集体を作って蓄積し、神経毒として作用することで脳の機能が低下する疾患と言われていますが、このアミロイド線維の構造はX線回折やNMR(核磁気共鳴)などの実験ではよくわかりません。そのため、解明にはスーパーコンピュータなどを使った計算機シミュレーションが期待されています。とはいえ、タンパク質のような多自由度をもつ複雑系は、これまでのやり方ではどうしてもシミュレーションがエネルギー極小状態に留まってしまいがちです。そこで注目されるのが、「拡張アンサンブル法」です。
他分野の応用で夢を叶える
物性物理学の分野で開発された拡張アンサンブル法というシミュレーション手法は、エネルギーの極端な上げ下げを繰り返し行って、エネルギーが極小状態に留まるのを避けるという方法です。その代表的なものに「マルチカノニカル法」「焼き戻し法」「レプリカ交換法」があります。拡張アンサンブル法を使った計算機シミュレーションは実験結果ともよく合い、将来も有望です。予測がつくようになれば薬の設計にも革命が起きることになるでしょう。物理学の分野から化学、生物学、薬学、医学への大きな貢献です。
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